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【妄想ストーリー】 #49 フリージアの少年

THE YELLOW MONKEYの楽曲『フリージアの少年』の歌詞背景を独自の世界観と言葉で物語にした作品です。


色彩を失ったセピア色の部屋で、少年はただ自分の細い指先を見つめていた。
外の世界では夕立がアスファルトを叩き、まるで誰かの感情の決壊のように激しく窓を打ち付けている。
彼はそれを魔女の仕業だと、あるいは魔女の涙なのだと呟きながら、乾いた笑みを浮かべた。
部屋の片隅には、まだ鮮やかな黄色を保ったフリージアの花束が置かれている。
その傍らには、どこか退廃的な美しさを放つ孔雀の羽根。
それらは彼にとって、汚濁に満ちた日常の中で唯一触れられる、残酷なまでに美しいファンタジーの断片だった。
彼はまだ17才だった。
大人の基準から見れば、それは庇護されるべき無垢な季節かもしれない。
しかし、彼の内側にある世界はとうの昔に擦り切れ、その魂は針を飲み込まされた男のように、息をするたびに内側から引き裂かれるような痛みを抱えていた。
独りでいる時の彼は、まるで狭い檻の中に閉じ込められた野獣のようだった。
赤い太陽に向かって剥き出しの目を向け、その眩しさを黒く塗りつぶすことでしか、自分の輪郭を保てなかったのだ。
「判らなくていい」
そう呟く少年の声は、誰に届くこともない。
それはシビアすぎる現実から目を背けるための呪文であり、同時に誰かに深く愛されたいと願う、あまりにも痛切なSOSだった。
彼は覚えたてのタバコに火をつけ、立ち昇る煙の中に自分の居場所を探した。
煙草の苦味は、彼が飲み込んだ現実の味に似ていた。
もしも今夜、目の前にいる貴方が自分に釘づけになったなら。
この歪んだ世界の中で、百年の恋が生まれる奇跡が起きるかもしれない。
そんな残酷で甘い夢を、彼は心の底で渇望していた。
まつ毛を濡らす涙は悲しみのためか、それとも救いを求める期待のためか。
どちらにせよ、夜の帳が下りる頃、彼は自分に言い聞かせるように呟くのだ。
「おやすみなさい、さようなら」と。
やがて、少年の日常に大きな亀裂が入る夜が訪れた。
二つの魂が激しく交差したその瞬間、彼は歓喜ではなく、「嫌いだ」と泣いた。
あまりにも熱を帯びた接触は、彼の内側にある脆いプライドと、幼い純潔を粉々に砕くには十分すぎたからだ。
その夜を境に、彼はもう引き返せない場所へと足を踏み入れた。
恥じらいという概念は、あの夜の交差の果てに置き去りにされてしまった。
少年はもはや隠れることを辞め、厚化粧を纏って自分のショータイムへと向かう。
頭にはあの孔雀の羽根を飾り、世間が吐き捨てた汚れてしまった言葉の数々をかき集めて、大勢の観衆の前に立ち上がったのだ。
スポットライトが彼を照らし出す。
それは華やかなステージであると同時に、彼が自らの魂を切り売りする公開処刑の場でもあった。
しかし、彼はもう怯えなかった。
17才という若さで、世界から、あるいは人生そのものから犯されたような圧倒的な痛みを、彼はそのままメロディーへと昇華させる。
覚えたての指癖で奏でられるギターの音色は、哀しく、そしてどうしようもなく艶やかだった。
それは針を飲み込まされた男の悲しい歌であり、同時に、傷ついた少年が世界に向けて放つ最後の反逆の歌でもあった。
「もしも貴方が今夜僕に釘づけで、百年の恋が生まれるかもね」
大勢の視線を浴びながら、彼は歌う。
その歌声は、かつて部屋の隅で独り泣いていた少年の面影を残しながらも、毒を含んだ美しい花のように妖しく咲き誇っていた。
魔法の夜を起こすベッドの上で、フリージアの花束に囲まれながら彼が夢見たのは、永遠の愛か、あるいは完全な崩壊か。
演奏が終わり、スポットライトが消えていく中、彼の口からはいつもの言葉が零れ落ちる。
「おやすみなさい、さようなら」
それは自分を消費する世界に向けられた別れの挨拶であり、かつての無垢な自分を葬るための静かな儀式だった。
ステージの闇の向こうで、ラララと歌声がこだまし、少年の影は夜の底へと溶けていった。


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