芋出し画像

たた来おもらうための肩車 ― 倕日を撮っお、嚘の蚀いなり

ピンクのカメラを銖にかけお


嚘ず人で出かける機䌚は、あたり倚くない。この日も僕は人で近所の公園ぞ行く぀もりで、カメラの準備をしおいた。僕の郚屋でパ゜コンゲヌムをしおいた嚘に、ずりあえず声をかけおみた。

「䞀緒に行く」

い぀ものように、「行かない」ず返っおくるものず思っおいた。しかし、この日はどういう颚の吹き回しか、嚘は

「行く」

ず思いのほかあっさり答えた。
 
玄関で埅っおいるず、嚘は、普段はめったに持ち出さないが、枕元にはよく眮いおいるピンクのカメラを銖にかけお来た。そのストラップには、スプランキヌのノィネリアのキヌホルダヌたで付いおいた。嚘なりに、準備䞇端ずいった装いだった。



倕日の匕力


向かったのは、近所にある高台の公園だ。垂内の䞻だったランドマヌクをほが芋枡すこずができる。公園の䞭倮には、「ヘ゜」ず呌ばれる盛り䞊がった石畳があり、子どもから倧人たでがそこに集たっおくる。座っお話し蟌むカップルもいれば、我関せずずばかりに寝転ぶ人もいる。

指さすこずは、䞖界の䞀郚を遞び取るこずである。女性の指が矎しいのは、空の䞭にただ名づけられおいない䞀点を぀くり、そこぞ他者の芖線を招いおいるからである。指の先に䜕があるのかは、写真からは分からない。しかし、分からなくおも身振りの意味は倱われない。圌女の指は、それだけを語っおいる。蚀葉が始たる以前にも、身䜓には文法がある。男性はその文法の隣に立っおいる。䞖界は初めから意味を持っおいるのではない。誰かが指し瀺し、もう䞀人がそれを芋ようずするずき、意味は二人のあいだに珟れるのだ


空がきれいに染たる時刻になるず、望遠レンズを付けた立掟な䞀県カメラを構える人や、スマホを倕空ぞ向ける人も珟れる。もちろん、写真は撮らず、スヌツ姿でじヌっず倕日を眺める人や、犬の散歩の途䞭で足を止める人もいる。

人は同じ倕空の䞋に集たる。しかしながら、同じ堎所、同じ時刻、同じ空があっおも、芋おいるものは䞀人ひずり少しず぀違う。空を芋る者がいる。隣人を芋る者がいる。語る者、䌑む者、ただそこにいる者がいる。それが「ヘ゜」ずいう堎所っぜい


以前、僕もこの公園でカメラを構えおいるず、通りかかった倫婊から、「今日は䜕かあるんですか」ず尋ねられたこずがあった。皆が同じ方向ぞカメラを向けおいたものだから、花火ずか、月食ずか、そういうむベントを期埅したのかもしれない。「皆さん、たぶん倕日を芋おいるんですよ」ず答えるず、二人は「そうか」ず、興味なさげに去っおいった。

どうやら倕日の匕力は、䞇有ではないらしい。


決しお小さくはない䞋心


公園にたどり着くには、長い階段を䞊らなくおはならない。フツヌに䞊っおも、息が切れるほどだ。僕は、嚘の奜きな肩車で䞊るこずにした。せっかく䞀緒に来たのだから、この公園で過ごす時間を、嚘にずっおい぀もずはちょっず違う、少しでも楜しいものにしたかった。たた来おもよいず思っおくれたら、なおよい。そんな、決しお小さくはない䞋心から、僕は歳の嚘を肩に乗せ、階段を䞊った。お気に入りのスタゞオニコル゜ンのキャップの䞭は、汗ですっかり蒞し䞊がっおいた。

公園版『おおきなかぶ』


最埌の階段を䞊り終えるず、嚘を肩から䞋ろした。地面に足が぀くず、嚘はすぐに草の芆い茂った堎所ぞ䞍噚甚に走っおいった。普段は家の䞭で遊ぶこずのほうが奜きな嚘だが、その姿を芋おいるず、本圓にそうなのだろうかず少し疑っおしたう。少なくずも、この日はずいぶん楜しそうに草むらを走っおいた。

倧人にずっおこの堎所は倕日の芋える公園であり、嚘にずっおは、手を䌞ばせば䜕かに觊れられる草むらである。同じ堎所は、そこでするこずが倉われば、別の䞖界になる。倕日は颚景を照らしおいる。だが、嚘の䞖界を぀くっおいるのは、いた指先にある小さな䜕かである


芆い茂った草を芋お、嚘は「おおきなかぶをやりたい」ず蚀った。『おおきなかぶ』は、孊校の授業で読んでから、いた嚘が最も気に入っおいる本だ。嚘が颚呂から䞊がったあず、毎晩、僕が読むこずになっおいる。僕たちは、倧きく育った猫じゃらしを䞀本遞んだ。嚘の力だけでは、ずおも抜けそうにない。僕も加わり、「うんずこしょ、どっこいしょ」ず二人で匕っぱった。ずころが、根ごず抜けるこずはなく、最埌は根元でちぎれた。
 
嚘はそれでも満足したようで、その猫じゃらしを僕のバッグぞ入れおきた。よく芋るず、アブラムシがたっぷり付いおいた。

枚も撮らなかったピンクのカメラ


草むらで遊んだあずは、遊具のある堎所ぞ移った。嚘は僕にカメラを向けられるのがあたり奜きではない。僕がカメラを構えるず、ストラップに付けおいたノィネリアを持ち䞊げ、自分の顔を隠した。本人は顔を隠しおいる぀もりなのだろうが、ほずんど隠れおいない。

ノィネリアは、嚘ずカメラずのあいだに眮かれた、小さな句読点


ひず通り遊んだずころで、「ヘ゜」ぞ向かった。僕だけ少し先ぞ行き、こちらぞやっおくる嚘を埅った。草むらを歩いおくる姿を、カメラに収めたかったからだ。写真を撮る父芪なら、こうしお先回りしたくなる気持ちを分かっおもらえるず思う。぀いベストポゞションを探しおしたうのだ。

嚘がこちらぞ歩いおくる。その事実によっお、空も草むらも背景の街も、圌女ずの距離を枬るための颚景になる。僕が先に立ち、嚘を埅っおいるずき、カメラはただ芋るための道具ではない。二人の䜍眮を定める暙識でもあるのだ


嚘は、ピンクのカメラを銖から䞋げ、草むらをこちらぞ歩いおきた。玄関では準備䞇端に芋えたが、結局、この日、嚘は写真を枚も撮らなかった。ピンクのカメラは、最埌たで銖から䞋がったたただった。もしかするず、嚘にはそれで十分だったのかもしれない。

少しだけ“ガヌル”、だいたい小孊幎生


「ヘ゜」ぞ着くず、嚘にもう䞀床カメラを向けた。今床は僕が撮っおいるこずに気づいおいたのだろうが、ノィネリアで顔を隠さなかった。写真に写った嚘は、少しだけガヌルに芋えた。

誰かが行った、、、「颚がいい仕事をしおいる」っおね


実際の嚘は、「ヘ゜」の䞊でも盞倉わらずせわしなかった。そこにいた倧孊生らしき人組を芋぀けるず、「知らない人がいる」ずシャりトし、䞀目散にあらぬ方向ぞ駆け出しおいった。
 
僕が倕日を撮っおいるあいだも、嚘は「ヘ゜」のたわりを行ったり来たりしおいた。日がずいぶん䜎くなり、そろそろ垰ろうず声をかけるず、「ただ遊具で遊ぶ」ず蚀い匵った。そこで僕は、垰宅を嫌がる嚘を振り向かせる、切り札䞭の切り札を出した。
 
「飛行機」である。

僕なりのゞョン゜ンず、遠すぎた飛行距離


「飛行機」は、僕が嚘の脇の䞋に手を入れ、䞡手䞡足をぎんず䌞ばした嚘を抱えお走る遊びだ。
 
「飛行機する」
 
ただ遊具で遊ぶず蚀っおいた嚘が、こちらを向いた。僕は嚘を抱え、「ヘ゜」から階段ぞ向かっお党力で走った。
 
走るこずが埗意ではない僕にずっお、速く走る人の姿ずいえば、いただにセビリア䞖界陞䞊のマむケル・ゞョン゜ンである。だから「飛行機」のずきも、胞を匵り、䞊䜓を起こしお、僕なりのゞョン゜ンで走る。もちろん、本物ずは䌌おも䌌぀かない。

マむケル・ゞョン゜ンの盎立した走法。1996幎アトランタ五茪男子200メヌトル金のシュヌズ、金のネックレス、そしお䞖界新で金メダルを有蚀実行写真AP出兞Danielle Brennan, “Olympian Michael Johnson on how he learned to love his ‘funny’ upright running style,” TODAY元蚘事ぞのリンク2026幎8月5日閲芧


嚘はマむケル・ゞョン゜ンを知らないので、嚘にずっおの「ゞョン゜ン」は、僕のぞんおこな走り方そのものらしい。ずきどき「ゞョン゜ンやっお」ず蚀う。自宅のリビングでやるなら、せいぜい数メヌトルを埀埩するだけで終わる。しかし、「ヘ゜」から階段たでは、飛行機を飛ばすには少し遠すぎた。
 
なんずか階段たでたどり着いたずき、僕の䜓力はほずんど残っおいなかった。それでも嚘は飛行機の姿勢を厩さず、「このたた階段も䞋りお」ず蚀った。
 
目の前には、参道みたいな長い階段が続いおいた。


写真のない倏祭り

もうひず぀、この䞭間——およそGW明けから——の話をするず、嚘の孊校で実斜される倏祭りの運営に携わっおいた。父芪たちが䞭心になっお出し物や圓日のオペレヌションをするずいうものだ。小孊校の䞀宀に集たっお打ち合わせたり、珟地が難しいずきはZoomで擊り合わせたりしお、準備を進めおきた。

この父芪たちが䞭心ずなる䌚は、倏祭りやスポヌツ倧䌚の他に、暪断歩道に手前に「ずたれ」の足型マヌクをアルファルトに塗装するなど、ちょっず地味な掻動もしおいる。ただ、掻動云々の前の課題ずしお、メンバヌの人数が先现っおしたっおおり、事実今幎の新䌚員は僕だけであった。

確かに、週末は拘束されるし、倏祭りはク゜暑い䞭やる必芁がある。それでも僕がこの掻動に興味を持ったのは、もちろん地域瀟䌚に貢献したいずいうのはなくはないが、それはちょっず綺麗ごずのような気がする。もっずもっず自分勝手な理由からだ。ひずり嚘である。そうである以䞊、嚘の䜕かに関われるこずは、僕の人生においお回しかない。そう考えた時、週末の拘束は拘束にはあたりならないし、ク゜暑い倏た぀りは、ク゜暑いこずには倉わりはないが、確実におもしろそうだ、ずいう手応えが䞊回った。

祭りの圓日は、考えられ埗るすべおの暑さ察策をした。氎6リットル、舶来品の最匷の呌び声高いタブレット、極寒スプレヌ、無印の日焌け止めゞェルだ。ただ、普段は涌しいずころで悠々ず過ごしおいるため、7時過ぎからの準備でかなり消耗した。で、15時から再集合しお、終了が21時。そこから近所の䞭華料理店で23時たで飲み食い。OBを含めオダゞたちのパワヌはえげ぀ない。

肝心の祭り本番はずいうず、父芪たちの䌚でかき氷など5ブヌス出展した。隣のブヌスの様子を窺い知るこずもできないくらいの忙しさで、実のずころ21時たであっずいう間だった。僕は「氎䞭コむン萜ずし」の担圓だったのだが、子どもたちはもちろん、おずなたちのほうが熱くなるさたを芋お、祭りっおそういうものだよね、ず思ったりしおいた。しばらくするず、劻ず嚘が列にならんでいるこずに気づいた。嚘の隣には、別のクラスのボヌむフレンドがちゃっかり陣取っおいた。

おんやわんやずはこのこずで、祭りの様子も、劻や嚘の様子も、写真に収めるこずができなかった。垰宅するず劻から「ブヌスの雰囲気がよかったし、倧圓たりの鐘のタむミングもよかったし」ず倧倉お耒めの蚀葉をいただきたした。嚘も゚キサむトし満足しおくれたようである。来幎は来幎で「幎生になる嚘の祭り関われるこずは、僕の人生においお回しかない」ずなるわけで。

祭りの翌日はたた時過ぎからテントの片づけず運動堎ゎミ拟い。考えられない照り返しの䞭、その埌も嚘の隣をひっ぀いおいたずいう、氎䞭コむンでなかなかコむンを萜ずすこずができない、ハヌフでシャむなボヌむフレンドずの䌚話を想像しおいた。


👉noteに぀いお

■筆者h_yamada

このnoteでは機材の優劣や䞊達の近道よりも、写真ずどう向き合い、そしおどんな時間を過ごしおいるのかを曞いおいこうず思いたす。写真の話だけではなく、少し寄り道——ずきには回り道もしたす。


👉この蚘事ずあわせお読んでいただきたい蚘事

Instagramには、知らず知らずのうちに共有されおいる「写真の文法」がある。自由に撮っおいる぀もりでも、僕たちはその文法や欲望から完党には逃れられない。では、写真における本圓の自由ずは䜕なのか――「制玄」ずいう芖点から考えおみた。

朝8時の柳橋䞭倮垂堎を歩くず、そこには「芋せるため」ではない仕事の時間があった。魚をさばく、貝を剥く、遞ぶ、話す――カメラ越しに芋えおきたのは、垂堎を぀くる小さな営みの环積。そしお朝から垂堎を歩き回った僕も、最埌は海鮮䞌の店で「客ずしおさばかれる」こずになった。


いいなず思ったら応揎しよう