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【第1回・スチームパンク(歴史改変)小説の書き方】「もしも1つ」から世界を作る3ステップ


【あらかじめご了承ください】
主に「創作の初心者から中級者へのステップアップ」を目指す方を対象として構成しています。
筆者は公的な専門家やプロ作家ではございません。
記述の正確性には細心の注意を払っておりますが、物語を面白くするためのアイデアとして、読者ご自身の判断で活用していただくようお願い申し上げます。

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はじめに:


「歴史のIF(イフ=もしも)を書いてみたい。」

そう思ってPCを開いたものの、気づけば史実の年表やWikipediaばかりを読み込んでしまう。

19世紀の服装は調べた。

馬車の種類も調べた。

でも、肝心の物語が一歩も進まない……。

そんな悩みをお持ちの方も少なくないのではないでしょうか?

歴史改変ものでは、設定を考えること自体が楽しくなって、気づくと資料集だけが分厚くなっていくことがあります。

そんなときは、世界の歴史をすべて一から精密に作り直すのではなく、まず一つだけ「史実と違うこと」を置いてみます。

たとえば――「もし19世紀にコンピュータが完成していたら?」

ここでいう「嘘」とは、史実を一つだけ別の方向へ曲げる、創作上の仮定のことです。

まずは、たった一つの「嘘(もしも)」を置いてみましょう。

そこから何が変わるのかを順番に追っていけば、まだ名前のない世界観が少しずつ立ち上がってきます。

そして、その想像を19世紀の蒸気技術ヴィクトリア朝の文化と組み合わせると、スチームパンクらしい世界観につながっていきます。

ちなみに「スチームパンク」という名称は、SF作家K.W.ジーター氏が1987年に雑誌への手紙で用いたのが初期の用例として知られています。

ジーター氏は「サイバーパンク」になぞらえてこの言葉を使いました。

なお、スチームパンク的な作品そのものは、この名称が生まれる以前から存在しています。

専門的な歴史の知識がなくても大丈夫です。

パズルを解くような感覚で、自分だけの歴史を構築していくヒントを探っていきましょう。

ー「スチームパンク(歴史改変)」おすすめ作品ー

『ディファレンス・エンジン』
ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング(著)、黒丸 尚(翻訳)

チャールズ・バベッジ機械式計算機「差分機関」が完成し、蒸気駆動の情報革命が起きた1855年のロンドン。
本作は、蒸気と歯車が社会を動かす異彩のヴィクトリア朝を描いた、
歴史改変SFの代表作です。
革命家の娘や
古生物学者といった異なる立場の人々が、高度なプログラムを巡る暗闘や国際的な陰謀へと巻き込まれていきます。
サイバーパンクを牽引した著者ふたりが、緻密な歴史考証と独自の着想を結集。
黒煙と
真鍮(しんちゅう)に彩られた街並みや、テクノロジーが社会構造をも変容させるダイナミズムが見事に描き出されています。
重厚な設定とクラシカルなサスペンスが融合した、SF読書に深みをもたらす名編です。



第1章:まずは一つだけ、歴史を変えてみる


オルタナティブ・ヒストリー(歴史改変)では、史実とは異なる歴史が始まる「分岐点」を、英語で「point of divergence(ポイント・オブ・ダイバージェンス)」と呼ぶことがあります。

SF批評では、これに関連する表現として「Jonbar Point(ジョンバー・ポイント)」という用語も使われます。

これはジャック・ウィリアムスン氏の『The Legion of Time(ザ・リージョン・オヴ・タイム)(邦題『航時軍団』)』に由来する言葉です。

この記事では、難しい学術用語としてではなく、「物語は『ここから歴史が変わった』で始める」と考えるための創作上の分岐点、という意味で便宜上(べんぎじょう)「歴史の分岐点」と呼ぶことにします。

では、具体的にどんな分岐点を置けばよいのでしょうか?

ここでは、実在した発明家チャールズ・バベッジ氏を例に考えてみます。

バベッジ氏が設計した階差機関(機械式計算機)の第一号機は、1832年に設計の一部が完成したものの、彼自身の手で機械全体が完成することはありませんでした。

もしこの機械が19世紀に完成し、さらに実用化されていたら、社会はどう変わっていたでしょうか?

実は、この発想を大きく膨らませた小説があります。

ウィリアム・ギブスン氏とブルース・スターリング氏の『ディファレンス・エンジン』です。

この作品では、バベッジ氏の機械が成功し、コンピュータ時代が一世紀早く到来した世界が描かれており、スチームパンクやオルタナティブ・ヒストリー(歴史改変)の代表的な作品の一つとして挙げられることがあります。

ここで重要なのは、バベッジ氏について詳しく知ることではありません。

「史実ではこうだった」という土台を一つ見つけ、それを「もし成功していたら?」に置き換える。

今回使いたいのは、この考え方です。

歴史を変えるといっても、巨大な戦争の勝敗を変える必要はありません。

  • ある技術が禁止されなかった

  • 本来失敗した実験が成功した

  • ある資源が別の国で発見された

そんな小さな変更でも、立派な歴史改変になります。

💡案内人からのワンポイントアドバイス:ひらめかないなら、「過去の夢」を一つ叶える
歴史の転換点というと難しく聞こえるかもしれませんが、現時点では「過去の人が夢見たけれど、当時は実現できなかったこと」を一つだけ実現させてみると考えておけば大丈夫ですよ。
「空を飛ぶ機械が19世紀に実用化したら?」
「遠距離通信が現在より100年早く普及したら?」
「現在では支持されていない
エーテル理論のような歴史上の科学的仮説が、主流のままだったら?」
そんなふうに妄想を広げてみるのが、世界観を作る第一歩です。


第2章:一つ変えたら、何が変わる?


ここまでは、歴史改変の「出発点」について考えました。

では、その一つの変更から、どのように世界全体を広げていけばよいのでしょうか?

設定を広げるときは、一気に世界情勢を考えるのではなく、「5段階」で身近なところから追っていくとスムーズです。

【技術】→【仕事】→【家庭】→【街】→【政治】

計算機が普及したと仮定しましょう。

まずは計算をする「仕事」が変わります。

次に、それが「家庭」にも入り込むかもしれません。

やがて「街」の情報管理が変わり、最終的には「政治」や政府の制度まで変わっていきます。

この変化を、文章でどう見せるかが腕の見せどころです。

「設定を説明する文章」と「設定が見える文章」を比べてみましょう。

  • (描写の比較)

  • 説明:
    「この街では、巨大な計算機によって市民が常に監視されている。」

  • 描写:
    「彼女が広場に入ると、頭上の
    パンチカード機が一度だけ、カチリと音を立てた。」

単なる「計算機がある」という説明ではなく、五感に関わる具体的な描写を加えると、読者がその場面を具体的に想像する手がかりになります。

読者に「この世界はこういう仕組みなのだ」と実感してもらうには、説明するよりも日常のワンシーンを描く方が、ずっと自然に伝わります。

そこへ、ヴィクトリア女王、ニコラ・テスラ、エジソンといった歴史上の人物や、シャーロック・ホームズ、ドラキュラ、ネモ船長といったフィクションの登場人物を、架空の文脈で再配置してみるのも面白い試みです。

☕ちょっと一息
ここで一度、あなたの物語を想像してみてください。
ヴィクトリア朝の霧深いロンドンの街角。
もしそこに、史実には存在しない「ある機械」が置かれているとしたら、あなたの機械は、どんな音を立てますか?
音だけでも構いません。
「カチ、カチ、カチ」でも、「蒸気が抜ける音」でも大丈夫です。
焦げた油の匂いや、絶え間なく吐き出されるパンチカードの紙の匂いなど、五感に訴えるシーンを思い浮かべるだけで、その社会の息遣いが立ち上がってきますよ。



第3章:設定沼から抜け出す。3ステップで世界を作る


じゃあ、実際に自分の物語へ落とし込んでみましょう。

この3ステップで作るのは、「世界の全歴史」ではありません。

主人公が生きる社会を形作る「一つの嘘」と、その影響だけを作ってみます。

ステップ1:まず、「一つだけ違うこと」を決める

初めに、史実とは異なる出来事を一つだけ設定します。

ここで気をつけるのは、創作初心者が「大きすぎる分岐点」を選んで行き詰まってしまうことです。

  • 大きすぎる:「19世紀の世界情勢が全部変わった」

  • 扱いやすい:「ある機械が10年前に完成した」

  • 扱いやすい:「ある発明が軍事利用されなかった」

すでに史実として知っている過去の時代を出発点にし、「身近な技術」や「発明」に絞ることで、ゼロから架空の世界を生み出す負担を減らしましょう。

ステップ2:その一つが、何を変える?

次に、その嘘が社会にどんな波及効果(リップル・エフェクト)をもたらすかを考えます。

ここで物語を動かすための強力な質問があります。

「その技術で得をするのは誰? 逆に、困るのは誰?」

技術が変われば、必ず仕事が変わります。

新しい仕事が生まれる一方で、消える仕事もあります。

誰がその技術を管理し、技術を持たない人はどうなるのか?

「技術→仕事→社会」という順番で追ってみましょう。

「機械式計算機が完成した」のであれば、「計算機技師という新たな花形職業が生まれる(得をする人)」一方で、「手計算をしていた書記官が職を失う(困る人)」かもしれません。

🔑ひらめきの鍵:ひらめかないときは、「失われたもの」を見る
「何が便利になったか?」ではなく、「この技術のせいで、何を失った人がいるのか?」から逆算する方法もあります。
新しい技術には、必ず「便利になった人」と「困った人」がいます。
「新しい機械のせいで、伝統的な職人が仕事を奪われた」「
煤煙(ばいえん)で青空が失われた」と考えていくと、物語に緊張感を持たせやすくなりますよ。

ステップ3:最後に、誰かの日常を書く

設定が決まったら、世界を説明するのではなく、その世界で「誰かを動かして」みましょう。

監視社会であることを説明する代わりに、こんな小さな出来事を書いてみます。

(描写例)
真鍮のレバーを押し込むと、重苦しい歯車の音が部屋に響いた。
打ち出されたパンチカードには、彼が今日どこで誰と話したかが全て
穿孔(せんこう)されている。
彼は油にまみれた指でカードを握りつぶし、
監視カメラ代わりの集音管を睨みつけた。

主人公が自分の行動履歴を受け取り、それを誰かに見られる恐怖を感じる。

それだけで、「設定」が「物語」のワンシーンに変わります。

■ 設定を、人物同士の対立に変える
一つの技術がもたらす社会の変化から、小さな葛藤を配置してみましょう。
・技術で得をする人は誰?
・技術で仕事を失う人は誰?
・技術を規制する人は誰?
・技術を盗みたい人は誰?
・技術を壊したい人は誰?
「この二人が同じ場所にいたら、何が起きる?」と考えると、世界設定から一気にプロット(あらすじ)へと進めることができます。

📝書き手向けメモ:年表より先に、1シーンを書いてみる
読者に「この世界は史実と違う」と感じてもらうために、国家規模の歴史年表を長々と説明する必要はありません。
「年表を完璧に埋めてからシーンを書く」のではなく、「まず目の前の機械を動かす1シーンを書いてみる」という逆転の発想を試してみてください。
試しに、主人公が朝起きて、最初に目にする「この世界ならではのもの」を書いてみましょう。
それが世界全体の手触りを伝える近道になりますよ。


まとめ


今日、世界設定を完成させる必要はありません。

「もし、○○が19世紀に実現していたら?」 まずは、この一文だけ書いてみてください。

そこから、誰の仕事が変わるのか?

誰が得をして、誰が困るのか?

そして、その世界で主人公が朝起きたとき、最初に何を見るのか?

一つずつ追っていけば、まだ名前のない世界が少しずつ形になっていきます。

アイデアを整理するための簡単なワークシートをご用意しました。

ぜひ、試してみてください。


✍️ 創作に使える『歴史の分岐点』構築シート

  • たった一つの嘘(特異点)は?
    ──[ 例:機械式計算機が19世紀に実用化された ]

  • それによる技術・仕事の変化は?
    ──[ 例:個人の情報がパンチカードで管理されるようになった ]

  • その変化で「得をする人」と「困る人」は誰?
    ──[ 例:情報を管理する政府が得をし、プライバシーを奪われた市民が困る ]

  • 社会制度や日常の風景はどう変わった?
    ──[ 例:市民は常に監視され、街路には歯車の駆動音が絶えず響いている ]


ここまでが、今回ご紹介した「歴史の分岐点」から世界観を組み立てる方法です。

次回は【第2回】「説明」を「体験」に変える!読者を没入させる五感描写のテンプレート です。

「蒸気機関がある」と書くだけでは、まだ読者の目の前には機械は現れません。

「熱い」「臭い」「うるさい」「重い」――そんな感覚を文章に置いた瞬間、設定は“説明”から“体験”に変わります。

次回は、そのための具体的なテンプレートを紹介します。

お楽しみに。


この記事を読んで感じた点や、実際に試してみた感想があれば、ぜひ教えてください。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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