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短編小説282「秋雨到来」後編

 職場に着けば、こんな些細な感情は一瞬で忘れるものだと頭ではわかりつつ、「あぁなんだかな」というすっきりしない思いは、始業の直前まで心のどこかにあった。
 とはいえ、職場は室内なので、外の天気とは一時的に無縁になる。 そうして業務が始まれば、目の前の仕事に集中し、あっという間に時間が流れていく。スケジュールはタイトかつ求められる結果もシビアで、立ち止まることなくひたすら走り抜ける感覚だ。朝のカッパの煩わしさなど思い出す暇もない。
 昼過ぎに本日のシフトが終業し、外に出る。空を見上げると、笑えるほどに朝と状況は変わっていない。相変わらずの、降っているのかいないのか分からない微妙な空だ。「いっそのこと濡れるか」とも思うが、まだ週明けで風邪を引くわけにもいかず、結局またあの面倒なカッパを着て帰路に就く。それでも、仕事が終わった解放感からか、帰りは心なしか気分も晴れやかで、家に着いたら玄関にカッパを放置し、速攻でシャワーである。
 さっぱりしたところで、気を緩めて仮眠を取る。午後が丸々フリーのシフトであることの特権だという勘違いを胸に床に就く。まだ明るい時間から横になるのだから、もうそれは単なる仮眠ではなく「ふて寝」なのかもしれない。低気圧のせいか軽い頭痛がするが、知らん。布団をかぶって雑に寝てしまう。
 目を覚ます頃には、きっとその時に天気が良くなっていることだろう。きっといい夢が見られるだろう。疲れもとれるだろう。そんな希望的観測が現実になるかどうかは知らん。大雨になって、追われる夢で目が覚めて、目覚め悪く疲れもそこまで取れない未来もあるかもしれない。べつにそれでもいい。
 今、自分が逃避をしたい。そもそも、逃げずに雨という現実に「真正面からぶつかるか受け止める」ってなんだ。わざわざ傘も持たずに濡れる事か、はたまた、縁側で和歌でも詠む事か。私だって苛立つ時もあるの。生活していれば、鬱憤や不満がたまるのだから。今日は誰に聞かせるわけでもないが、グチグチ、ねちねちと吐露させてよ。そんな思いは全て、眠りの中に沈めていく。
 結果として、そこそこいい眠りにつけた。起きた時には気持ちも落ち着いていた。 ふと見ると、電動自転車のバッテリーの充電が終わっていて、それをはめに外へ出る。すっかり雨は上がっていて、薄く曇る切れ目から月明かりが差している。「これこれ、こういうやつよ」と和歌は詠めないけれど、静かな秋の夜の雰囲気は十分によかった。
 そうして、部屋に戻り明日の天気を調べると、画面に表示されたのは昨日の夜調べた結果とほぼ一緒。「曇り、降水確率50~60%」。見たくない再放送になった。 晴れるか、雨降るかはっきりしろや。

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