…点滴を外す
夜、電話があった。
寝たきりだった叔父が、
点滴をやめたという話だった。
電話を終えて思う。
いつから、
こんなにも苦しまないと死ねない、
そんな世の中になったのだろう。
これは、何かの罰や罪なのか。
そう思ってしまうほどだ。
入院を繰り返し
自宅で暮らせなくなり、
施設に入らざるを得なくなってから一年。
体も思うように動かせなくなり、
朗らかでいつも笑わせてくれた叔父から、
笑顔は消えた。
徐々に痩せ細り、乾いた唇から発する言葉は、
叶わぬ願いばかり。
「お腹すいた」
「何か一口でいい、食べさせてくれ」
「牛乳を飲みたい」
「一滴でいい。水を」
懇願する本人を前に、
家族は見守ることしかできない。
代わりにやれる事を必死で探す。
顔を拭いてあげようと
おしぼりを濡らして持っていく。
すると、
「もっとゆるく絞って顔においてくれ」
と言う。
おしぼりから滴り落ちる、
わずかな水滴を期待して。
だが、それすら
「絶対にダメです。
死期を早めてもいいのなら別ですが」
と医師に告げられたらしい。
長い人生の中で、様々な苦労も
味わってきただろうに、
このうえまだ、医療という名の苦行を
受けてからでないと、逝かせてもらえないのか。
この苦しさから解放されるために、
気がつけば、死を願ってしまう。
そんなふうに感じた。
やがて叔父が意思表示をした。
「点滴を、外して、くれ」
掠れた声で途切れがちに。
点滴が外された。
生きるために受けていた医療が、
いつのまにか死を阻む苦痛へと
逆転してしまっている。
電話をくれた叔父の家族に対して
「早く良くなってね」とも、もう言えない。
かといって「早く逝けるといいね」とは、
言えない。
いなくなるのは寂しい。
でも…
楽にしてあげたいね。
