足の指を上げる ― 意識の置き場所について
師からは何度も、
「足の指を上げろ」
と言われました。
大勢の門人がいる中で繰り返し言われていたため、当時は誰か特定の人への指導というより、全体への教えとして受け取っていました。
私自身も足の指は上げていました。
踵から出ること。
母指球・小指球・踵の三点で荷重すること。
つま先重心にならないこと。
当時は、そのための教えだと思っていました。
しかし後になって思うのです。
師は足の指や重心だけを見ていたのでしょうか。
足の指を上げる理由
足の指を上げると、つま先で地面を掴むことができません。
その結果、
踵から動きやすくなる
三点支持が作りやすくなる
重心が前に流れにくくなる
といった効果があります。
しかし、それだけでしょうか。
意識の置き場所
人は意識した場所を操作しようとします。
肩を意識すると肩に力が入る。
腕を意識すると腕に力が入る。
喉を意識すると喉に力が入る。
何も意識の置き場所がないと、身体全体を管理しようとしてしまいます。
すると上半身への介入が増えます。
肩はどうか。
腕はどうか。
手の内はどうか。
その結果、余計な力みが生まれることがあります。
足の指に意識を置く
足の指を上げることを意識すると、自然と意識は足元へ向かいます。
すると上半身への意識が減ります。
肩や腕を操作しようとしなくなります。
結果として、上半身の力みも減ります。
これは、意識の置き場所による効果です。
私は後になって、師はこの点を指導していたのではないか、と思うようになりました。
腹に力を入れろ
武道では、
「腹に力を入れろ」
と言われることがあります。
一般には、
姿勢を保つため
体幹を安定させるため
と説明されます。
もちろん、それもあるでしょう。
しかし別の見方もできます。
腹を意識することで、肩や腕への過剰な意識を減らしているのではないか。
もしそうなら、
「腹に力を入れろ」
も、
「足の指を上げろ」
も、
意識の置き場所を示す教えなのかもしれません。
型は圧縮ファイル
師の教えは短い言葉で語られます。「足の指を常に上げておくこと。これ大事です。」
しかし、その言葉の中には多くの意味が圧縮されています。
当時は分からなかったことが、後になって見えてくることがあります。
今回の「足の指を上げる」という教えも、その一つなのかもしれません。
重心の話だと思っていた教えが、
実は意識の置き場所の話でもあった。
振り返ってみると、そのようにも思えるのです。
