その場では、平気だったはずなのに。
「じゃあ、また明日」
そう言って、笑った。
相手も笑っていた。
「お疲れさま」
いつものように、
そう言って、その場を離れた。
外は、もう暗くなり始めていた。
スマホを見る。
18時を少し過ぎている。
駅までの道を歩きながら、
さっきの会話を思い出した。
でも、特に何とも思わなかった。
少なくとも、そのときは。
家に着く。
靴を脱ぐ。
鞄を置く。
冷蔵庫を開ける。
麦茶を取り出して、コップに注ぐ。
ごくごくと飲む。
いつもの夜だった。
テレビをつける。
誰かが笑っている。
こちらも、なんとなく笑った。
夕食を済ませて、
風呂に入る。
湯船につかりながら、
今日あったことをぼんやり思い返していた。
そのときだった。
昼間の言葉が、
ふっと浮かんだ。
「そんなに気にすること?」
一瞬、手が止まった。
……。
なんで、今?
もう終わった話なのに。
湯船のお湯が、
静かに揺れている。
私はしばらく、
その言葉を頭の中で転がしていた。
別に、怒られたわけじゃない。
大きな声で言われたわけでもない。
相手も、
そんなつもりではなかったと思う。
だから、その場では笑った。
「そうだよね」
そう答えた。
それで終わったはずだった。
なのに。
なぜか今になって、
胸の奥に小さな引っかかりがある。
風呂から上がる。
髪を乾かす。
スマホを見る。
通知がいくつか来ている。
返信をして、
また画面を閉じる。
布団に入る。
電気を消す。
暗くなる。
すると、
また思い出した。
「そんなに気にすること?」
今度は、さっきより近く感じた。
私は天井を見た。
目を閉じても、その言葉だけが残っている。
「……私、気にしてたのかな」
声に出してみて、
自分で少し驚いた。
気にしていないと思っていた。
傷ついてもいないと思っていた。
だから、忘れていたのだと思っていた。
でも、
忘れていたわけじゃなかった。
その場では、
相手の顔を見ていた。
どんな表情をしているか。
この空気を悪くしたくない。
ここで「嫌だった」と言ったら、
相手は困るかもしれない。
だから笑った。
「大丈夫」
と言った。
そして、自分の気持ちは、
その場の隅に置いて帰ってきた。
たぶん、
そういうことだったのだと思う。
だから、あとから戻ってきた。
誰もいない夜に。
もう誰にも
気を遣わなくていい時間になって、
やっと、
自分のところまで戻ってきた。
時計を見る。
もう、日付が変わりそうだった。
昼間なら、
気にも留めなかった言葉が、
今は妙に近くにある。
遅れてきたんじゃない。
ずっとそこにあったのかもしれない。
私が、
自分のところまで戻ってくるのを、
待っていた。
そう思ったら、
少しだけ見え方が変わった。
私は、
傷つきやすかったわけじゃないのかもしれない。
気にしすぎだったわけでもない。
その場では、
自分より先に、
相手のことを考えていただけだった。
もちろん、
いつでも我慢すればいいわけじゃない。
嫌なことは、嫌と言っていい。
傷ついたなら、傷ついたと言っていい。
でも、
その場で言葉にできなかった自分を、
あとから責めなくてもいいのだと思う。
「ああ。
今日の私は、ここで傷ついていたんだな」
そう思った。
不思議と、
胸の奥が少しだけ軽くなった。
すぐに答えを出さなくてもいい。
誰かを責めなくてもいい。
自分を責めなくてもいい。
ただ、
そのとき置いてきた自分の気持ちを、
ちゃんと迎えに行く。
それだけで、
夜は少し静かになる。
眠る前、
昼間の言葉をもう一度思い出した。
今度は、
さっきほど苦しくなかった。
私は目を閉じた。
静かな部屋の中で、
思った。
あとから傷つく私も、
ちゃんと傷ついていた。
もう、
「気にしすぎ」とは言わない。
遅れて戻ってきた気持ちを、
今度は置いていかない。
🌸楽曲を作ってみました🌸
この文章を元に、Suno(AI)で静かなピアノと歌声の楽曲を作ってみました🎵
夜、一人になってから気づく気持ちや、置いてきた心にそっと寄り添うような温かいバラードです。
よければ聴いてみてください😊(約4分)ご無理なく🙇
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