不協和音さえも、愛おしい旋律。ピアノの調律師が教える「心の響き」を整える方法 ~エールエッセイ~
「ピン……」と、一本の弦を弾く。
わずかにずれた音を、耳と指先の感覚を研ぎ澄ませて、あるべき場所へと戻していく。
ピアノの調律師――それが今の私の役目です。
ピアノには200本以上の弦があり、それらが絶妙なバランスで響き合うことで、一つの美しい和音(ハーモニー)が生まれます。
私たちの日常も、よく似ていると思いませんか?
朝5時、猫たちの空腹を告げる合唱から始まり、仕事での介護、帰宅後の母のケア。
20匹以上のペットたちの鳴き声や足音、そして自分自身の心の溜息。
それらが混ざり合う毎日は、時として「不協和音」のように聞こえることもあるかもしれません。
私自身、W介護と24匹のお世話に追われる中で、「もう、この騒がしさに耐えられない!」と耳を塞ぎたくなる夜がありました。
でも、調律師の視点で日常を眺めてみると、少しだけ世界が変わって見えたのです。
不協和音は、決して「悪い音」ではありません。
ただ、少しだけ「調整が必要な状態」なだけなのです。
仕事で疲れて心がトゲトゲしている時は、弦を少し緩めて、自分を休ませてあげる。
50代からの学び直しやKindleの執筆は、新しい音色を加えるための、大切な調律の時間。
我が家のラフテッドコリーの大きな足音も、チワワの甲高い鳴き声も、11匹の猫たちが奏でるゴロゴロという低音も・・・
一見バラバラなそれらの音を、否定せずに「一つの曲」として聴いてみる。すると不思議なことに、カオスだと思っていた日常が、世界に一つだけの豊かな交響曲(シンフォニー)に聞こえてくるのです。
もし今、あなたの人生が不協和音ばかりだと感じているなら、どうか焦らないでください。
一気にすべての弦を直そうとしなくていい。
今日、一箇所だけ。
大好きなコーヒーを飲む一瞬や、猫を撫でる指先の感触。
そこだけを「心地よい音」に調律する。
その小さな響きが、あなたの明日を必ず美しい和音へと導いてくれます。


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