カンガルーたちへ - JMC/JMOの世界観
英国では、UKMT(英国数学協会)という団体が、小中学校の子供向けに、毎年春に全国的な算数大会を実施しています。
年齢別にリーグが異なるのですが、ここでは息子が先日受けた、Year 7とYear 8(11〜13歳相当)が対象の、「JMC」・「JMO」について紹介します。
みんなで楽しむJMC
予選の Junior Mathematical Challenge(JMC:ジュニア・マセマティカル・チャレンジ)は、1時間・25問のマーク式。同世代約140万人(Year 7&8 あわせて)の全員が受けるわけではなく、受験者は例年30万人程度。学校が団体で申し込むので、理数教育に力を入れているパブリック・スクールやグラマー・スクールなどの生徒が中心になります。(一応、主催のUKMTに個人で直接申し込むルートもあるようです。)
そのJMCの結果トップスコアの1,000〜1,200人程度は本選の「Junior Mathematical Olympiad(JMO:ジュニア・マセマティカル・オリンピアード)」に進出します。また、それに次ぐ上位約1万人は「Junior Kangaroo(ジュニア・カンガルー)」というまた別のリーグに参加します。
オリンピアンやカンガルーになると、上位1%以内に入る算数力が証明されることになるので、英国においては、大学受験の際のパーソナルステートメントとしても評価される履歴になるそうです。
でも、なんで「カンガルー?」って思うよね。知的に跳ねるから?
いえ、この「誰もが挑戦して楽しむ算数大会」というコンセプトを創って世界に広めたのが、オーストラリアの数学者(ピーター・オハロラン氏)だったから。彼への敬意を表して「カンガルー」っていうタイトルなのだそうです。JMCは、序列をつけて篩い落とすための試験ではなく、広く算数の楽しさを伝えることを目的とした大会なのです。
…ということを、私は、息子が知らない間に学校でJMCを受けて、運良くOlympianに選出されたことによって、初めて知りました。
証明の美しさを追求するJMO
JMOは2時間・6問の記述式試験で、その結果TOP 25%に入ればDistinction、次の40%に入ればMeritの認定証をもらえます。Distinctionの中でも特に成績優秀であれば、Gold/Silver/Bronzeのメダルももらえるようです。
へええ、それは進出できただけで嬉しいね、楽しみなよ…とか言ってたら、数週間後にJMOを受けて帰ってきた息子が、「6問中5問とけた」というので、えっ!それはもしかしたらメダルとっちゃうんじゃないの?と親バカな期待をしたのですが、蓋をあけたら、26点でMeritでした。あと6点でDistinctionだったのに惜しい。
参考までに以下に今年(2026年)の解答例を貼っときます。上記のUKMTのサイトから過去問も辿ることができます。
正解を出すことではなく、論理構造を言語化して美しく証明するプロセスに主眼が置かれて点がつくため、60点満点に対して、例年、平均点が20点前後になるそうです。
日本の中学生向け算数オリンピックとの比較
息子は算数が好きなのです。渡英当初、言葉が通じないなかでも算数で目立てたことが自信になりました。その自認のまま、9歳くらいからは日本の算数教材を使って自宅で勉強をしてきました。(プレップではなく無償のステートスクールに通っていたため、学校の算数はゆるすぎて不安なレベルだったので。)
2年前に「11+」(英国の中受)を突破したのも、進学校の中でも相変わらず算数無双できているのも、今回JMOに進めたのも、改めて日本の算数のおかげです。
ちなみに、日本には「算数オリンピック」というものがあります。
中学生部門の参加者は約1,000人。そんなに少ないのは、日本には既に成熟した受験制度や塾産業があり、自分の立ち位置を把握できる模試の機会がいくらでもあるからでしょう。そもそも、難関中受を突破した算数マッチョが力余ってぶつかりにいく知的格闘技のイメージです。
同世代人数に占める比率で見ると、英国の「JMO」は日本の「算数オリンピック」に近いようですが、問題の質を見ると、日本の「頂点を極める選抜文化」と英国の「みんなで楽しむ文化」の違いがそのまま出ています。
いずれも、本当に算数が好きでやってきた子供たちのチャレンジではありますが、反対側のチャレンジを与えた時に結果を出すまでに鍛える工数を想像するなら(言語障壁はないものと仮定して純粋に難易度だけで比べると)、英国のJMOオリンピアンが日本の算数オリンピックを受けるのと、その逆とでは、おそらく前者の方が大変だろなと思います。つまり日本の算数の方がやっぱり負荷が高い。
国別の初等教育の算数難易度(推測)
そんなこんなで、初等教育算数の難易度はやっぱり「日本>英国」だなと確信していたのですが、最近、新たな気づきがありました。
ご本人が10歳くらいの時で中国から日本に移住してきて、超難関の中高一貫校で育った友達に「小学校高学年で外国に来てすぐ受験って大変だったのでは?」と聞く機会があったのです。
すると「言葉のキャッチアップは確かに苦労したけど、算数は中国のほうがずっと高度なことをしていたから簡単だった」と言う答えがかえってきました。てことは、もしかして初等教育における算数の難易度は「中国>日本>英国」なのか。
ついでに、私のここまでの観察からもう少し先まで序列拡張してみると、算数教育に関する熱心度は「中国>日本>インド>英国>米国>オーストラリア>北欧」かもしれません。インドはトップ層は凄いけどそのメソッドがみんなに落とし込まれていない。オージーはレイドバック。北欧にはそもそも競争がないから…というイメージです。偏見御免。
あくまで個人の意見です。ただ、それを裏付けるかのように、息子と同じクラスからJMOに進んだ他の2人は、どちらも中国系ハーフの子でした。(息子の学校は、インド・パキスタン系、アングロサクソン系、東北アジア系がだいたい均等に在籍している感じです。その中で日本ルーツの子は少ないけれど。)
そして息子は今回JMOで辛い点を取ったことで何かに目覚め、「こういうタイプの問題もできるようになりたい」と言い始めました。まさに大会のもくろみ通り、知的好奇心を刺激されたようです。
日式算数とはまた評価軸の異なる英式算数の世界、これを機に楽しく探求してくれたらいいなと思います。
