見出し画像

不合格にした彼女から、数年後に届いた言葉|忘れられない生徒の話②

彼女が入塾してきたのは、中2の夏前だった。

公立ではない学校の生徒だった。そのまま高校に進学できる環境にある学校で、学校側も受験を推奨していない。周りの同級生たちはのんびりと学校生活を楽しんでいた。

それでも彼女には、外に出たい理由があった。

学校は受験を想定していないから、当然サポートはない。授業内容は受験とかけ離れていて、課題も多い。塾との両立は、端から見ていても本当に大変そうだった。

でも彼女は、泣きごとをほとんど言わなかった。

線の細い、かわいらしい女の子だった。でも目に宿る意志の強さは、格別だった。


彼女が目指したのは、公立のトップ高校だった。

素行に問題はなかった。でも学校の成績は受験向けではなく、模試の偏差値もなかなか届かなかった。内申点も、正直なところ厳しかった。

「今の状態では難しい」と何度も伝えた。志望校のレベルを下げることも提案した。でも彼女があきらめることは、一度もなかった。

そのたびに、静かにこう言った。「わかってます。でも、ここを受けたいんです」

その目を見ていると、それ以上何も言えなかった。


迎えた入試当日。

私はその日、別の生徒の応援に会場へ向かっていた。彼女のそばにいることができなかった。だから別の講師に頼み、激励のメッセージカードを託した。

後から聞いた話では、珍しく緊張した面持ちで現れた彼女は、そのカードを受け取って弱々しい笑みを見せた後、会場へと吸い込まれていったという。


合格発表の日。

彼女の受験番号は、なかった。

声を荒げることもなく、静かに涙する彼女に、私は自分自身を責め続けた。もっとできることがあったんじゃないか。志望校のレベルを落とすよう、もっと強く伝えるべきだったんじゃないか。合格させてやれなかった。

悔しかった。

でも一番悔しいのは、彼女だ。いつも不安そうに、それでも彼女を信じて見守り続けてきたお母さまも、複雑な感情を抱えながら「これまでありがとうございました」と卒業していった。


それから数年が経ったある日、社内メールが一通届いた。

別の部門のスタッフから、あの彼女が大学受験に合格したと連絡があった。彼女の妹が別の教室に通っており、お母さまから「私に伝えてほしい」と頼まれたのだという。

塾では生徒との私的な連絡は禁止されていた。当時の教室から異動していたこともあり、彼女は直接連絡ができなかったようだった。

そのメールにはこう書いてあった。

「先生からあのとき言われた言葉のおかげで、大学受験に向かって頑張ってこれました」

正直、そこまで慕ってくれているとは思っていなかった。卒業後、会いに来ることもなかった。なにより、志望校に合格させてあげられなかった。そのことが、ずっと心の中にあった。

大学受験の試験当日、彼女は当時私が書いたメッセージカードを握りしめて会場へ向かったそうだ。


あの面談で、彼女は恥ずかしそうに教えてくれたことがある。

「医者になりたい」

そんな彼女が合格したのは、医学部だった。


不合格で人生が終わるわけじゃない。

面談でそう言ったとき、彼女はどんな顔をしていただろう。今となっては思い出せない。でも彼女はその言葉を、ずっと持ち続けてくれていた。

高校受験は、通過点に過ぎなかった。大学受験、就職活動、これからもまだまだたくさんの戦いがある。少し遠回りになったかもしれない。でも最後になりたい自分になれたなら、それが勝ちだ。

彼女はそれを、自分の力で証明してくれた。

塾講師として、これ以上の喜びはない😊

▶︎ はじめましての方はこちら👇
【自己紹介】元塾講師ワーママ、わかママです

📝 あわせて読んでほしい記事

塾や学校の先生と上手に関わることが、お子さまの可能性を広げる一歩になります。懇談で使える質問リストを元塾講師の視点でまとめました。

学校・塾の懇談で絶対に聞くべき10の質問|元塾講師が厳選

いいなと思ったら応援しよう!

わかママ|元塾講師フルタイムワーママ よろしければ応援お願いします♡皆さまのお役に立てる記事を書いていきます!!