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26話ONE WORLD ✟ ノヌヘブンノヌサンクチュアリ ✟ 「波王」OLD ORDERWATERBORN MEMORY LAYERcodeSEED-04

あらすじ

蒌環高校ぞ転校しおきた、カナネずオトワ。

攟課埌の《neoSalt》で、ツナリずシラハは、氎域に珟れた䞍自然な揺らぎに぀いお話しおいた。゚クレシアは「垂民生掻ぞの圱響はない」ず告げるが、双子が海ぞ芖線を向けた瞬間、店からすべおの音が消える。

翌朝、ツナリの旧知であるモンゞュが線入しおくる。モンゞュずオトワの芖線が亀わした䞀瞬、教宀の空気は二局に分かれ、䞖界の拍がわずかに倉わった。

数倀には衚れない異倉。綺麗すぎる波王。そしお、湖の底に沈む巚倧な圱。

五人が氎蟺に立ったずき、眠っおいた機械の単県が、静かに圌らを芋返す。

氎の星の日垞の䞋で、䜕かが目を芚たそうずしおいた。

26話「波王」
OLD ORDERWATERBORN MEMORY LAYER
codeSEED-04


攟課埌。

海沿いのファヌストフヌド《neoSalt》は、孊校垰りの生埒たちで混み合っおいた。

赀ず黄色のストラむプの屋根が西陜を和らげ、開け攟たれたテラスには、朮の匂いず揚げ油の銙りが入り混じっおいる。

自動ドアが開く。

閉じる。

たた開く。

そのたびに店内の冷気が逃げ、代わりに湿った海颚が入り蟌んできた。

ツナリはポテトを䞀本぀たみ、カリッず噛んだ。

「やっぱり、ここのポテトは倖せない」

向かいに座るシラハは、ストロヌをくわえたたた端末を芋おいた。

「油分、基準倀の䞀・䞃倍」

「なんで今それ蚀うの」

「事実だから」

「ポテト食べるずきに、事実はいらないんだよ」

ツナリはもう䞀本぀たんだ。

シラハは小さく息を吐き、端末を閉じる。

その芖線が、テラスの向こうぞ向いた。

湟䞊には巚倧な癜いタワヌが立っおいた。

その足元では、枯湟プラットフォヌムが倕陜を反射しながら、ゆっくりず旋回しおいる。

枯湟局。

資源保党局。

蒌環高校。

䞉぀の機関が共同で䜿う《氎域フィヌルド》。

䞊玚生の倚くがあそこで実習し、そのたた枯や氎域関連のセクションぞ就職しおいく。

氎を孊び。

氎を枬り。

氎を街ぞ流す。

昔から、この街ではそれが仕事であり、生掻だった。

ただし、氎を流すための最終暩限だけは、もう枯にはない。

十幎前から、すべお゚クレシアが握っおいる。

ツナリはポテトを口に運びながら、シラハの暪顔を芋た。

「さっきから䜕芋おんの」

「氎域デヌタ」

「たた」

「午前の芳枬倀が、少し倉だった」

シラハが端末を開き、湟䞊に重ねるように半透明の波圢を衚瀺する。

いく぀もの现い線が、ほずんど同じ間隔で䞊䞋しおいた。

「揺らぎが揃いすぎおる」

「揃っおたら安定しおるっおこずじゃないの」

「自然の氎は、こんなに綺麗に揃わない」

シラハは波圢の䞀郚を指先で拡倧した。

「朮も、颚も、氎枩も違う。それなのに党郚が同じタむミングで揺れおる」

「぀たり」

「誰かが合わせおるみたい」

ツナリが眉をひそめた。

そのずき。

《ピヌ  》

店内の倩井スピヌカヌから、短い電子音が鳎った。

話し声が少しだけ小さくなる。

âž»

《゚クレシア資源局より、垂民の皆さたぞ》

《本日のSEED-04氎域は、安定区分A–2です》

《埪環湖および湟岞氎路の氎䜍は、暙準倀の範囲内に維持されおいたす》

《なお、䞀郚湟岞セクションにおいお、0.10Hz垯の埮小ゆらぎが確認されたしたが——》

《垂民生掻ぞの圱響はありたせん》

《安心しお、孊習・劎働・奉仕掻動を続けおください》

âž»

攟送が終わった。

シラハは画面に残った波圢を芋぀めおいた。

「  “圱響はありたせん”っお蚀われるものほど、埌から圱響が出る」

「やめおよ。昚日のニュヌスも、それ蚀っおたじゃん」

ツナリは笑おうずした。

だが、うたく笑えなかった。

今朝、氎を飲んだずきに感じた、わずかな味の違い。

気のせいだず思っおいた。

思うこずにしおいた。

自動ドアが開いた。

制服姿の少女ず少幎が入っおくる。

カナネずオトワだった。

カナネは店内を芋回し、空いおいる窓際の垭を芋぀ける。オトワは䜕も蚀わず、その埌ろを歩いおいた。

「  転校生」

ツナリが声を萜ずす。

「芋れば分かる」

「いや、そうじゃなくお。ここ来るんだ」

「転校生もポテトくらい食べるでしょ」

二人は泚文を枈たせ、窓際の垭ぞ座った。

カナネがストロヌの袋を砎る。

オトワは窓の倖に広がる海を芋おいた。

その盎埌だった。

店内から、音が消えた。

自動ドアの駆動音。

フラむダヌで油が匟ける音。

生埒たちの話し声。

波が護岞ぞ圓たる音。

すべおが、䞀床だけ遠ざかった。

ほんの䞀瞬。

心臓が䞀拍するより短い時間。

それでもツナリには、はっきりず分かった。

䞖界の音が、ひず぀抜けた。

テヌブルの䞊で、ドリンクの氎面が揺れた。

颚はない。

誰もテヌブルに觊れおいない。

小さな波王が䞀぀。

円を描き、カップの瞁ぞ届いお消えた。

オトワずカナネが、同時に海を芋た。

同じ角床。

同じ速床。

たるで二人が、同じ声に呌ばれたように。

ツナリはポテトを持ったたた、動きを止めおいた。

「  今の、芋た」

「芋た」

シラハはすでに端末を開いおいた。

指が玠早く画面をなぞる。

音圧。

気圧。

地磁気。

氎域振動。

すべおの項目が正垞倀を瀺しおいる。

《局所異垞芳枬倀なし》

「出おない」

「䜕も」

「䜕も」

シラハは画面から顔を䞊げた。

窓際では、カナネがオトワぞ䜕かを囁いおいた。

オトワは答えない。

ただ、その芖線だけが湟䞊のタワヌではなく、そのさらに向こうを芋おいる。

街倖れにある、巚倧な埪環湖。

ツナリは手にしおいたポテトを眮いた。

「明日、聞いおみよう」

「䜕を」

「あの二人にも、今のが聞こえたのか」

「聞こえたっお、音は——」

「消えた音も、音でしょ」

シラハは答えなかった。

テヌブルの䞊では、もう氎面は静かになっおいた。

     ◇

翌朝。

教宀の窓から差し蟌む光が、机の衚面を淡く照らしおいた。

遠くから䜎い波音が聞こえる。

ツナリが窓際の垭にバッグを眮き、怅子ぞ座った。

「  今日も䞀番乗りか」

「私が先」

隣では、シラハがすでに端末を開いおいる。

「现かいなあ」

「事実だから」

「昚日から事実ばっかりだな」

ツナリは頬杖を぀き、教宀の埌方を芋た。

ただカナネずオトワは来おいない。

昚日のneoSaltで起きたこずが、頭から離れなかった。

音が消えた瞬間。

二人が同時に海を芋た。

そしお、端末には䜕も蚘録されおいなかった。

教宀のドアが開く。

入っおきたのは、担任の霧島だった。

癜衣の裟を軜く抌さえ、教卓ぞ端末を眮く。

「垭替えをしたす」

登校しおきた生埒たちから、䞍満の声が䞊がった。

霧島はそれを聞き流し、続ける。

「それから、䞀名、線入がありたした」

教宀がざわ぀いた。

「たた」

「昚日も二人来たばっかりじゃん」

「今幎、倚くない」

霧島が黒板ぞ名前を曞く。

《文殊》

ツナリの衚情が止たった。

「  は」

シラハが暪を芋る。

「知っおるの」

ツナリが答えるより先に、教宀のドアが開いた。

黒い髪。

胞元には、现い鎖で䞋げられた銀色のペンダント。

同幎代の生埒ず倉わらない制服姿。

それでも、教宀ぞ入った瞬間、空気の密床がわずかに倉わった。

「文殊です」

少幎は教宀を芋回した。

その芖線がツナリで止たる。

ほんの少しだけ、口元が緩んだ。

「久しぶり、ツナリ」

「  モンゞュ」

ツナリは怅子から立ちかけた。

「垰っおきたの」

「たあね」

それ以䞊は説明しなかった。

だが、二人の間には、離れおいた時間を䞀蚀で埋められる皋床の近さがあった。

シラハは黙っお二人を芋比べおいる。

霧島が座垭衚を芋ずに告げた。

「垭は、ツナリの前。シラハの隣です」

モンゞュが教宀を暪切る。

その途䞭で、埌方のドアが開いた。

カナネずオトワが入っおきた。

モンゞュが足を止める。

オトワも止たった。

二人の芖線が亀差する。

䜕も蚀わない。

颚もない。

教宀の枩床も倉わらない。

それでも、ツナリの机に眮かれおいた透明なボトルの䞭で、氎が揺れた。

䞀重。

二重。

波王が内偎から生たれ、透明な壁ぞぶ぀かっお戻っおくる。

シラハが端末を芋る。

《振動芳枬倀なし》

《音圧倉化なし》

《氎域共鳎なし》

異垞はない。

その衚瀺を芋た瞬間、シラハの衚情が硬くなった。

異垞があるのに、異垞がない。

それは数倀が間違っおいるのではない。

数倀になる堎所より、もっず深いずころが揺れおいる。

モンゞュがオトワから芖線を倖した。

䜕事もなかったように、指定された垭ぞ座る。

「よろしく」

シラハは少し遅れお答えた。

「  よろしく」

霧島は教卓から五人を芋おいた。

ツナリ。

シラハ。

モンゞュ。

カナネ。

オトワ。

その芖線は䞀人ず぀ではなく、五人の間に生たれた、目に芋えない圢を確かめおいるようだった。

「授業を始めたす」

教宀のスピヌカヌが、わずかに濁った。

     ◇

昌䌑み。

ツナリは匁圓を持ったたた、カナネの垭の前ぞ立った。

隣にはシラハ。

少し離れたずころから、モンゞュも぀いおきおいる。

「昚日、neoSaltにいたよね」

カナネが顔を䞊げる。

「いたけど」

「攟送が終わったあず、倉なこず起きなかった」

カナネの箞が止たった。

「倉なこず」

「音が党郚消えた」

ツナリは声を萜ずした。

「その瞬間、二人ずも海を芋た」

カナネは隣のオトワを芋る。

オトワは窓の倖を芋たたた答えない。

シラハが端末を差し出した。

「蚘録には䜕も残っおない。でも、テヌブルの氎は揺れた。今朝も同じ。あなたたちずモンゞュが目を合わせた瞬間」

「俺も含たれおるんだ」

モンゞュがツナリの埌ろから顔を出す。

「圓事者みたいだからね」

「昚日は俺、いなかったけど」

「今日はいた」

「厳しいな」

モンゞュはそう蚀っお笑った。

だが、すぐにオトワぞ芖線を向ける。

「昚日のあれ、音じゃないだろ」

オトワが初めおモンゞュを芋る。

「  分かるのか」

「少しだけ」

モンゞュは胞元のペンダントを指で぀たんだ。

「聞こえたんじゃない。内偎ぞ觊っおきた」

カナネの衚情が倉わった。

「あなたも」

「たぶんね」

沈黙が萜ちた。

ツナリだけが話に぀いおいけず、䞉人を順番に芋る。

「ちょっず埅っお。“内偎”っお䜕」

「そのたたの意味」

「党然分かんない」

シラハが端末の衚瀺を切り替えた。

湟岞ず埪環湖を結ぶ氎路図。

その䞀郚に、现い青い線が点滅しおいる。

「朝から十秒間隔で通信欠損が起きおる」

「0.10Hz」

カナネが呟いた。

シラハが目を䞊げる。

「知っおるの」

「昚日の攟送で蚀っおたから」

カナネはそう答えた。

だが、その蚀葉が初めお聞いたものではないこずを、オトワだけは知っおいた。

十秒に䞀床。

遠い堎所から、䜕かが呌吞しおいる。

カナネは昚倜から、その間隔を胞の奥で感じおいた。

「発生源は」

オトワが蚊いた。

シラハが地図を拡倧する。

「正確には分からない。でも、湟岞じゃない」

点滅しおいる線をたどる。

その先にあるのは、街倖れの埪環湖だった。

「湖の底」

モンゞュが蚀った。

四人が振り返る。

「なんで分かるの」

ツナリの問いに、モンゞュは少し困ったように笑った。

「さっきから、そっちに匕っ匵られおる」

胞元のペンダントが、淡い青を垯びおいた。

     ◇

攟課埌。

五人は埪環湖ぞ向かった。

校舎裏の氎域実習路を抜け、管理甚の现い坂道を䞋っおいく。

湖は蒌環高校ず枯湟プラットフォヌムの䞭間に䜍眮しおいる。

湟から取り蟌たれた氎を䞀床ここで埪環させ、街の氎路ず垂内タンクぞ送り出す。

巚倧な人工湖。

それでも氎鳥が棲み、魚が泳ぎ、季節になれば岞蟺に花が咲く。

街の人間は、もうそれを人工物だずは思っおいなかった。

湖面には倕暮れの空が映っおいる。

颚は穏やかだった。

「䜕もないじゃん」

ツナリが蚀った。

シラハは端末を構え、湖面を走査する。

「氎枩正垞。颚速二・䞀。流速も基準内」

「じゃあ垰る」

「ただ」

モンゞュが岞蟺に立っおいた。

ペンダントを握り、湖の䞭倮を芋぀めおいる。

オトワずカナネも、同じ堎所を芋おいた。

「䜕かいる」

カナネの声が小さく震えた。

その瞬間。

湖面に円が生たれた。

小さな波王。

颚ずは逆の方向ぞ、ゆっくりず広がっおいく。

䞀぀目の波王が岞ぞ届く前に、䞭倮から次の波王が生たれた。

十秒。

たた䞀぀。

十秒。

たた䞀぀。

すべお同じ倧きさ。

すべお同じ間隔。

シラハが画面を確認する。

《氎面倉動芳枬倀なし》

目の前では、確かに湖が揺れおいる。

だが、端末の䞭の湖は静止しおいた。

「これ  映っおない」

湖にいた氎鳥が、䞀斉に飛び立った。

魚の矀れが岞ぞ抌し寄せ、氎面を癜く泡立たせる。

空気の匂いが倉わった。

朮でも、藻でもない。

冷たい金属の匂い。

地面の䞋から、䜎い音が響く。

ドン。

十秒。

ドン。

ツナリが息を呑んだ。

「これが  錓動」

湖面の波王が止たった。

颚も止たる。

飛び立った鳥たちの声だけが、遠ざかっおいく。

䞀秒。

二秒。

湖の䞭倮が、ゆっくりず盛り䞊がった。

氎の䞋を、巚倧な圱が暪切る。

長い腕。

折り畳たれた関節。

胞郚らしき茪郭。

どう芋おも、生き物の圢ではなかった。

「機䜓  」

シラハの声がかすれる。

湖面に亀裂のような線が走った。

氎が巊右ぞ抌し分けられおいく。

その暗い裂け目の奥で。

巚倧な単県が、開いた。

淡い光が氎底から五人を照らす。

ツナリは動けなかった。

シラハの端末が、初めお譊告音を鳎らした。

モンゞュのペンダントが青癜く発光する。

カナネの脳裏に、赀い空が走った。

ひび割れた倧地。

厩れ萜ちる塔。

光の䞭に立぀、巚倧な圱。

オトワも同じものを芋おいた。

知らないはずの景色。

倱ったはずの蚘憶。

湖底の単県が、二人を芋぀めおいる。

違う。

芋おいるのではない。

埅っおいた。

十秒埌。

この星の奥深くで、二床目の錓動が鳎った。

                      ぀づく

次回 第27話「湖の底」

いいなず思ったら応揎しよう