見出し画像

三度断ったカフェラテ


カフェラテ一杯を車まで運んでもらうのに、私は三度、「大丈夫です」と言った。

右足をけがしてから、外出には松葉杖が必要になった。

両手がふさがる。コンビニの袋一つでも、以前と同じようには持てない。

それでも、できることは自分でやりたかった。

店員さんが、買ったものを車まで運びましょうかと声をかけてくれた。

車は入口から数メートル先にある。

それくらいなら、と断った。

少しして、また聞かれた。

「大丈夫ですよ」

もう一度聞かれて、もう一度断った。

松葉杖を使うようになってから、私は「大丈夫です」と言うのがうまくなった。

本当に大丈夫かどうかより先に、口から出るようになった。

カフェラテを受け取り、店を出ようとした。

すると、さっきの店員さんがまた来た。

「お持ちします」

今度は質問ではなかった。

カフェラテを受け取ろうとして、そこを動かない。

ありがたい。

でも、頑固な人だなと思った。

三度断った私も、同じくらい頑固だったのかもしれない。

「では、お言葉に甘えて」

店員さんはカフェラテを持ち、私はその後ろを松葉杖でついていった。

ほんの数メートルだった。

店員さんはカフェラテを、私は松葉杖を持って歩いた。

車のカップホルダーに置いてもらい、私はようやく、きちんとお礼を言った。

ドアを閉め、一口飲む。

味は、いつもと同じだった。

断るのには、三回かかった。

受け取るのには、数メートルしかかからなかった。


#飲み物のある時間
#エッセイ
#カフェラテ
#コンビニ
#松葉杖
#日常
#小さな親切

いいなと思ったら応援しよう!