【世界はひとつの世界】第四章 ラポラ編丨BREAKOUT GRAND PRIX 用に編集(8/27)
フォロワーは要らない。
アナタたちに読んでみてもらいたかっただけ。
同じ形の線の集合体は誰にでも書ける。
でも想いは書けない。
自分にしか書けない物語で
四章が一番思い入れがある。
だから先に完成してた。
二回も"本気"を生き延びた 死にぞこなった
そうそういるもんじゃない人間の本気の言葉。
ドヤッ
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【あらすじ】
千年前に魔王を倒した8人の賢者の生まれ変わり、
陽気な金髪ウタリと無口な黒髪イレンカが旅をしている。
地下10階のダンジョンでの冒険
女だけの独立国を作ろうとしていた
イコロとの戦い
国を乗っ取り王になろうとしていた
イオマプとの戦い
それらを経て、二人は田舎の村へとやってきた。

『おや、ばーさん。ちわー』
心地よい日差しに昼ごはんでいっぱいのお腹。
眠気が誘われる昼下がり。
村のはずれの粗末な小屋から
一人の老婆が出てきた。
丁度そこへ二人が通りがかった。
ウタリの挨拶に老婆も答える。
『あら、こんにちは。旅の人かね』
『あぁ。この先が村だよな?
こんなとこに住んでんの?大変じゃない?』
『そうだねぇ。
でも贅沢も言ってられないからねぇ』
三人で村の中心の方へ歩き出す。
『買い物かい?』
『いや、仕事だよ。食堂の雑用・掃除係さ』
『えー。その年で?子供とかは?』
『娘がいたんだけど色々あってね…。
今は病気で身体が不自由な孫娘と二人暮らしさ』
『そっかー。変な事聞いて悪かったな』
『いいんだよ。こんな話することもそう無いしな』
『この村はギルドあんの?』
『あぁ、あるよ。
大きな街ほどたいそうな依頼はないけどね』
二人は食堂の前で老婆と別れ、
教えてもらったギルドの方へと歩いて行った。
『看板ちっちゃ!
普通の家だな…
聞いてなかったら分かんなかったかもな』
ウタリはイレンカと顔を見合わせて中へ入る。
『ちーっす。やってるかーい?』
4~5人入ればいっぱいの狭い部屋に
無人のカウンター。
自宅の一部に無理やり受付をこしらえた感じだ。
奥から声がする。
『はーい』
パタパタと足音がして、
あごひげを生やした中年の優男が現れた。
『依頼かい?』
『いや、請負いたいんだけど、何かある?』
『今あるのはこんな感じだねぇ』
ウタリはマスターが取り出した紙を
ペラペラとめくって見ていく。
『夫婦喧嘩の仲裁をしてください…
3000ゴールド。
行方不明になったネコを探してください…
1500ゴールド…。平和だなぁ。
手配モンスターもおらんの?』
『こんな田舎だからねぇ。
本格的なハンターはそうそう来ないし、
手配されるようなモンスターが湧いたら、
ウチに依頼がくる前に城の兵が討伐に来るね』
『そんなもんかー』
ペラペラとめくっていた依頼リストの
最後の1枚に目が留まった。
『丘の上に咲いている
白い花を摘んできてください。10ゴールド。
なんだこれ?
依頼日は1ヶ月くらい前か』
『あぁ、それな。
村のはずれに住んでる少女の依頼なんだが…
身体が不自由でお金を持ってなくてな。
気の毒だから家の不用品を私が買い取って
受付はしたんだが、丘には怪鳥が棲んでるし、
1万Gでも受けてくれる人がいるかどうか…』
『ふーん。さっきのばあさんの孫娘かな?』
イレンカの顔を見る。
『ラメラばあさんを知ってるのかい?』
『あぁ、ここを教えてくれたんだ。
何かの縁だし、行ってみっか』
イレンカは悪い顔はしていない。顎で返事をした。
『おぉ!本当か!
受けてくれる人がいると思わなかったから
詳しくは聞いてないんだ。
本人から直接聞いてくれるか。
ただ、無理はするなよ。10ゴールドだからな』
『今は金に困ってねぇし、
ま、たまにはこんなのも良いんじゃね?
あ、その怪鳥は手配されてねーの?』
『あぁ。この地域の守り神だからな。
おかげで凶悪なモンスターが湧かないんだ』
『そっかー、残念。まぁちょっくら行ってくるわ』
二人は来た道を戻ってラメラの家へと向かった。
コンコンコン
入り口をノックして続ける。
『ちわー。ギルドからきましたー』
中から女の子の声がする。
『はーい。ごめんなさい、ちょっと私動けないの。
入ってきてくださる?』
『おじゃましまーす』

扉を開けて中に入ると小さな空間の奥には、
窓際のベッドに上半身を少し起こした状態で
寝ている少女がいた。
『あんな依頼を受けてくださる方がいるなんて。
待ってて良かったわ』
満面の笑みを浮かべる少女。
その首から下は動いていなかった。
『白い花って、どんな花を摘んで来ればいいの?』
『少し肉厚な花びらで、4枚あって大きくて、
重なってお椀みたいな形をしているそうなの』
イレンカは説明を聞きながら
少女の顔をじーっと見つめている。
『ふーん。いっぱい生えてんの?』
『それが、丘の上に一輪だけ咲いていたそうなの』
『へー。まず探すとこからか。
でもまだ咲いてんのかな?』
『ごめんなさい…それは分からないわ…』
少女のしょんぼりした表情を見ていたウタリの目に
気になるものが入った。
『おや?それ、首飾り?綺麗だね』
服の首元から少しだけ金色が覗いていた。
『あ、これ?うん。
何でも願いを叶えてくれるっていうネックレス』
『ええっ!?すっげー!』
ウタリの目が急に輝いた。
『久々にちゃんと見てみたいわ。
服の中から出してもらっても良いですか?』
『もちろん』
少女の頭を優しく抱え、首からネックレスを外して
少女の顔の前にもってくる。
大きな紫色の宝石の左右に
二回り小さい同じ宝石がついている。
その周りに金色の豪華な装飾が施され、
とても高価なものに見える。
『毎日「良くなりますように」って
お願いしてるの。
全然良くならないけど…
出て行ったお母さんが残してくれた
唯一の思い出の品なの』
『出て行っちゃったんだ…』
『うん…お父さんは生まれた時からいなかったし
私の世話ばっかりの毎日は大変だもの…。
新しい男の人の所へ行っちゃった…』
『そっか…』
『でも!依頼を受けてくださる人が現れるなんて。
このネックレス、やっぱり本物だったのね』
『じゃあ、ちゃんと花採ってこないとな!
行ってくるぜ!』
少女の顔がパアッと明るくなった。
『うんっ!お願いします』
二人は家を出て草原を進み丘へと向かっていく。
二人の姿が丘へと消えていった…
家の中を覗く怪しい影があった…
『どーこにあんのかなぁ?
とりあえず天辺目指してみるかー』
しばらく山道を進んでいくと
頭の上の方が騒がしくなった。
見上げると大空に黒い影が舞っていた。
『あーれが怪鳥かー。
天辺の方に向かってる感じだなぁ』
イレンカもぼーっとした目で後を追う。
山頂付近に急に現れる切り立った崖のような小山。
その頂上の平らな台地に降り立った。
そこへ二人も向かっていく。
1km、800m、600m…
近づいてくる人間二人を怪鳥は睨みつけている。
『ギャワー!!』
二人が崖まで200m程まで近づいたとき、
怪鳥が急に立ち上がり羽ばたき始めた。
『おぉ~?なんだ?…襲ってくる!?』
飛び立った怪鳥がクチバシで
二人を串刺しにせんと、勢いよく突っ込んでくる。
ヒラリとかわす二人にすぐさま反転して
今度は鋭い爪で襲い掛かる。
『おぉう。なんだなんだ』
この程度の攻撃、二人にとってなんてことはない。
しかし、地域の守り神だと聞いている以上
下手に手出しはできなかった。
『どーするよ?』
ホバリングしている怪鳥を攻めあぐねていると、
クチバシを大きく開けその中央に力を溜め始めた。
『おおぉっ…これは…』
力が十分に溜まりきると、
カッと鋭い光線が二人に向けて放たれる。

サッと華麗にかわす二人に向け、
けたたましい鳴き声と共に2発3発と続く。
光線が当たった山肌は削れ、
植物は瞬時に炭になる。
『こりゃあ穏便には済ませられないな』
ウタリはタッと怪鳥の頭上まで飛び上がると、
両手を組み力を少し込め頭の上から振り下ろす。
『グギャワッ!』
撃ち落された怪鳥が叩きつけられ地面に沈む。
『ちょいとオネンネしといてくれよ』
タッと着地したウタリとイレンカが
先へと歩を進めた次の瞬間。背後から
カッ!
と光線が襲い掛かる。
身を翻しかわす二人に、
怪鳥が起き上がって飛び掛かってくる。
『しぶといなぁ』
ウタリは全身に力を込め闘気を
怪鳥に向かって一気に放出する。
イレンカがユングダンジョン地下3階で
敵を気絶させるためにやったのと同じものだ。
ドン!
衝撃を受け怪鳥は怯む。が、倒れない。
再び勢いをつけ襲い掛かってくる。
『効かねぇか…しょうがねぇ!』
攻撃をかわしながら拳に力を込め、
腹!胸!頭!と打ち抜く。
『グガ…ァ…』
巨体をのけ反らせ怪鳥は仰向けに倒れた。
『悪ぃな。大した怪我じゃねぇと思うけど』
邪魔する者がいなくなり、
二人はロッククライミングで昇るような崖を
つま先の引っ掛かりだけで軽快に駆け上がった。
頂上は平らでそれなりに広い。
中央にでかい鳥の巣があり、
でかい卵が一つ置いてあった。
『あいつが退かなかったのはこれかぁ。
悪ぃことしたなぁ』
ウタリが卵をなでなでしている横で
イレンカが辺りを見回している。
そして片隅で目的の物を見つけた。
それにウタリも気づく。
『おっ?あれか?…って…あれは…』
ウタリの顔が曇る。
何か知っているようだ。
摘みに近づくイレンカを止める。
『待てよ!それってアレだろ。夢見花だろ』
それが何か?
という表情を返すイレンカにウタリが続ける。
『城にいた時に聞いたことあるんだよ。
見つけたら絶対に確保しろって。
それ、花びら1枚に
人間10人は軽く殺せる毒が含まれてんだよ』
かつては広く分布していた夢見花。
その花の毒を摂取すると、
苦しむことなく眠るように死んでしまうことから
ユメミバナと名付けられた。
毒を抽出して武器として使ったり、
魔法の開発に使われたり、人々に狩られ続け
今では見つかることは殆ど無くなっていた。
で?
という表情で夢見花に手を伸ばすイレンカ。
依頼を聞いた時点で
そんなことは分かっていたようだ。
躊躇いなく摘もうとする姿にウタリは慌てる。
『あの娘がなんでこんな危険な物、
必要としてんだよ。あっ!』
前かがみになり花を摘んだイレンカが、
体を起こしウタリを見る。
『理由は関係ない。依頼だ』
『そんなことないだろ!誰かを殺すためだったら』
『あの娘にそれができるか?』
ウタリの中にある不安がよぎっていた。
『自分じゃできないけど…それに…その誰か、が…
もし…自分自身だったら…』
イレンカは冷たい目で返す。
『それの何が悪い?』
ウタリの胸に突き刺さる。
『えっ…』
『お前はあの二人の未来をどう想像する?』
『…ラポラとばあさんの?』
『普通に考えれば祖母の方が先に亡くなる。
そうなった時あの娘はどうなる?』
『どう…って…』
『目の前で苦しみ息絶えていく祖母を、
何もできぬまま見ているだけ。
そして祖母の亡骸を前に、
食事も排泄の処理もできず、
自分にも死が訪れるのを待つだけ』
『うっ…』
『祖母が出先で亡くなれば、
いつまでもそれを知ることなく、
募る不安の中、日々弱っていく』
『…………』
『この村を出れば"それ"に触れることはない。
二人のことを忘れれば心が痛むこともない。
見ぬふりをして何もしない、が一番楽な選択だ』
ウタリは何も言い返せず下を向いてしまった。
『お前にあの娘が動けるようにできるのか?
一生面倒を見てやるのか?
この花はあの娘にとって、
未来を変えることのできる希望だ』
ウタリは泣きそうにな顔になってしまった。
『でも…』
顔を上げ何かを言おうとするウタリを
置き去りにして背中越しに言う。

『目の前にいつでも死ねる手段がある。
だからこそ今日一日を死なずに終えれる。
その繰り返しを、生きる、と呼んでいる者も、
いるんだよ』
イレンカはサッと崖を下りて行った。
一瞬ビクリとしたウタリは立ちつくしてしまった。
その横で音がする。
パリ…パリッ…
『ピヨ!』
卵が割れてヒナが出てきた。
ウタリを見つけると
転げながらヨチヨチ近づいてくる。
『ピーピー』
『………………』
足元にまとわりつくヒナを気にすることもできず、
奥歯をグッと噛みしめながら考え込んでいた。
花を持ったイレンカは、
ラポラの家を通り過ぎ村の中心部へ向かった。
雑貨が並ぶ店に入る。
『へい!らっしゃい!何がご入用で?』
もみ手をしながら出てきた店の主人に告げる。
『この花を活ける瓶が欲しいんだが』
『おぉ!立派な花!
こりゃあ安物の花瓶じゃ花が泣いちまう!
これなんかどうだい?
宝石も散りばめられて綺麗だろ!
白い花にピッタリだぜ!1万G!』
イレンカを観光客だとみた店主。
一番高い花瓶をまくし立てるように勧めてくる。
断られた後に勧める本命の
3000Gの瓶をチラチラ見ている。
『それでいい』
『えっ?』
あっさり言われて驚く店主。
ハッと気づいたような顔をする。
『なんだ~?兄ちゃん、プロポーズか~?
そりゃあチンケな物は渡せねぇな!
よしっ!俺も男だ!
半額の5000でいいぜ!
さらに枯れにくくなる
ポーション入り栄養水もサービスだ!』
売り物の小瓶を開け中身をトクトク移し替え、
イレンカから花を取り上げ瓶に挿す。
『ほれっ!』
差し出された瓶を受け取り
5000Gを支払って店を後にする。
『頑張れよー!』
店主が大きく手を振って見送っていた。
コンコンコン
『はーい』
ラポラの家に戻ってきた。
扉を開けて中に入ると、
花瓶を持ったイレンカにラポラの声が弾む。
『わぁっ。採ってきてくださったんですね。
あれっ?その花瓶は?』
チラリと花瓶に視線を落とし答える。
『山で拾った。川で洗ったら綺麗になった』
『そんな高そうなものが偶然?ラッキーですね♪』
テーブルの上にコトリと置き、
椅子を持って移動させラポラのベッドの側に座る。

『もう一人のハンターさんは?』
不思議そうな顔のラポラに
イレンカは平気な顔をして答える。
『アイツは鳥のフンを踏んで滑って転んで
頭を打って寝ている』
『わあっ!大丈夫なんですか!?』
『よくあることだ。アイツはよくうんこを踏む。
こないだ行ったダンジョンでも…』
真顔で続けられる話に
ラポラが疑うことはなかった。
『城に行った時は豪華な食事を食べ過ぎ腹を壊す、
階段を踏み外して転げ落ちる…』
『うふふ。おっちょこちょいなんですね』
『単なるバカだな。バカだから治りも早い。
気にすることはない。
ハルドゥンの手配モンスター狩りに行った時も…』
イレンカの嘘に聞こえない冒険譚に、
ラポラの笑顔と笑い声は絶えなかった。
『お二人は色んな所へ行かれてるんですね。
私も行けたらなぁ』
『行けばいい』
『でも、私、身体がこんなだから…』
『誰かに連れて行ってもらえばいい』
『でも、迷惑かけちゃうし…』
『借りができれば返せばいい』
『でも、私にできることなんて…』
『身体を動かせなくとも考えることはできる。
そしてそれを伝えることもできる』
『でも、私の考えなんて…』
『俺とお前と何が違う?』
『ハンターさんは自由に動けるけど、
私はベッドで寝たっきり…』
『じゃあ俺が病気になったり、
魔物にやられて動けなくなったら?』
『………』
『俺は寝たきりの生活をしたことがない。
お前に教えてもらわなければならない』
『私が…教える…?』
『何が不便なのか、何に困っているのか。
人は誰しも寝たきりになる可能性がある。
助け合う輪が広がれば、
そうなっても生きやすい世界になる』
『そんな…世界を変えるだなんて…』
『できるかできないかじゃなく、
やるかやらないかだ。
できない言い訳を考えるより、
何を解決したらできるようになるか、
を考えた方が建設的だな。それは同じものだ』
『やるか…やらないか…』
イレンカはラポラの首元のネックレスを見る。
『その石ころは
傷がつけば輝きを失い価値がなくなる』
ラポラもそれを見る。イレンカが続ける。
『しかし人は違う。
傷つけば傷つくほど強く光り輝ける。
生傷のままじゃ痛々しくて見てられないが、
乗り越え、傷跡にできた時、
他人にはない大きな財産になる』
ラポラは考え込んだ。
ガチャリ
家の扉が開き、ラメラが帰ってきた。
『おや、今朝のハンターさん』
『おかえりなさい、おばあちゃん。
私の依頼を受けてくださったの』
『あんた依頼なんか出してたのかい。
お金もないのに』
『マスターさんのご厚意で』
『俺は行こう』
スッと立ち上がるイレンカ。
ラポラが慌てて声をかける。
『あっ、ハンターさん。
私、完了報告できないから、
伝えてくださいますか?
少ないですけどお代、受け取ってくださいね』
『いや、いい』
無表情のまま答えるイレンカに
さらに慌ててしまう。
『そんな。
私みないなのでも、
そこはちゃんとしたいんです』
顔色を変えることなく振り返り、
ラポラの目を見て言う。
『それが無くなったら次の依頼、出せないだろ』
ドキッとするラポラ。
『あっ…。あのっ!
次の依頼もまた受けてくださいますか?』
『気が向いたらな』
スッと家を後にするイレンカを見送る二人。
『優しいハンターさんだねぇ』
『うん…』
『おや…これは…』
ラメラがテーブルの上の花に気付いた。
途端、表情が凍り付く。
『あ、それ。
さっきのハンターさんに採ってきてもらったの。
花びらが…すごく美味しいんだって…』
ラポラの言葉からは依頼を出した時の決意が消え、
大きな迷いがこもっていた。
『そっ…そうなんだ…ね…。
でも今日は、もう、準備しちゃったから…
また、今度、ね…』
顔を隠すようにラポラに背を向けるラメラ。
それが何なのか、何を意味するのかは知っていた。
見えない所で二筋の悔しさが頬を伝う。
ラポラの家から出ると、
そこには頭にでっかいヒナを乗せたウタリが
茫然と立ち尽くしていた。
ヒナは居心地よさそうに寝ている。
『俺…どうしたらいいのか…分からない…』
考えすぎて憔悴し、弱々しく呟くウタリ。
『分からないなら分からなくていい』
二人と一羽は村の中心へ向かい宿屋へ入った。
まん丸の月が天高く輝く夜。

いつものように机に突っ伏して寝るラメラ。
ラポラは窓から月を見上げていた。
ガタガタッ!バァン!
家の扉が乱暴に開けられ3人の男たちがなだれ込んできた!
『なんだい!あんたたち!』
立ち上がって男たちを止めようとするラメラは、
投げ飛ばすように振り払われ壁に激突した。
『邪魔だババァ』
『おばあちゃん!』
声をあげるラポラに男たちの視線が集まる。
『こいつか』
一人がニヤリとしてラポラに近づき、
乱暴にネックレスを引きはがす。
『あぁっ…』
ラポラはそのまま床に転げ落ちてしまった。
男たちはネックレスを見てニヤニヤしている。
『なんも盗るモンねぇシケた村だと思ったが、
いいモンあるじゃねぇか』
『しかもこんな、
盗ってくださいってな村はずれにな。
クックック』
ラポラが訴える。
『返してください!それは大切な…』
『あ~ぁ?何言ってんだおめぇ』
別の男がラポラを見下ろして
おぞましい言葉を発した。
『こいつ、悪くねぇな。
ついでにちょっと使っていくか』
『おめぇも好きだな。どこがいいんだよ』
『穴は穴だろ』
カチャカチャとベルトを外し始める男に、
フラフラしながら起き上がった
ラメラが必死の形相で飛び掛かる!
『やめろー!!!』
必死に腕に噛みつくもあまり効いていない。
別の男がラメラの頭を掴み
勢いよく壁へ向かって投げつける。
『ぐっ…あぁ…』
『おばーちゃーん!』
ラポラは涙をいっぱいにして叫んだ。
『ウザいババァだな。こっちを先にヤるか』
男二人が倒れたラメラに近づき
思いっきり踏みつける。
『ぐっ…がっ…うぅっ…』
ラメラのうめき声が響きわたり、
ラポラにはズボンを下した男の手が迫る。
迫りくる絶望の中、ラポラの願いは一つだった。
(私はどうなってもいい!
お願い!おばあちゃんを助けて!)
ラポラの強い願いに
ネックレスが妖しく光を帯びる。
『あぁ…ダメだ…ラポラ…。願うんじゃない…』
『なにぶつくさ言ってんだ。
そろそろ死ぬか?ババァ』
二人の男が揃って足を大きく上げた。その時!
『ぐああっ』
ラポラを襲おうとしていた男の叫び声が響いた。
驚いた二人が振り返ると、
そこには青白い光でできた巨大な熊がいた!
ズボンを下した男は鋭い爪で腕と胸を裂かれ
のたうち回っている。
『なっ、なんだこいつ』
『ナメやがって』
一人は腰からナイフを取り、
一人は氷の攻撃魔法を構え、
同時に青白い光の熊を攻撃する。
しかし通じない。
すぐさまくる反撃に防御するも
易々と身体を切り裂かれる。
はずみで男の持っていたネックレスが床に転がる。
『ぐあっ』
『くそっ…なんだこいつ』
勝てそうにないと分かった二人は
慌てて逃げていく。
ズボンを下した男も
胸の傷口を押さえて必死に後を追った。
『おばあちゃん!大丈夫!?おばあちゃん!』
『はぁ…はぁ…ラポラ…なんてことを…』
『この熊が助けてくれたの?』
『違う…それは…このネックレスは…』
『喋っちゃダメおばあちゃん!
助けを呼ばないと!』
『聞きなさい…ラポラ…。
このネックレスは…本物の…
願いを…叶える…ネックレスなんだ…。
願う者の…命と…引き換えに…』
『えっ?』
────────────数ヶ月前。
『ライラ。どうしたんだいそのネックレス』
『母さん。
これはどんな願いも叶えてくれる
ってネックレスさ。
ラポラはどんなヒーラーに見せても治らない。
でもこれならきっと治る』
『そんな物にお金を使ったのかい。
バカなことをして』
『バカってなんだ!
ラポラはずっと辛い思いをしてるんだ。
あの娘のためなら何だってするのが
親ってもんだろ!』
『だったらお金を溜めて
もっといいヒーラーを探したら…』
『治せないヒーラーに金を使う方がバカさ!』
ため息をつくラメラ。
その日からライラは、
我が娘ラポラの身体が良くなるように
毎日ネックレスに祈り続けた。
毎日。
毎日。
ラポラの身体が良くなりますようにと。
まん丸の月が天高く輝く夜。
『なんだこのネックレス!インチキじゃないか!』
家の裏で地面にネックレスを叩きつけるライラ。
それに気づいたラメラが家から出てきた。
ラポラは気付かずスヤスヤと眠っていた。
『そんなもんだよ。
もし本物だったら、
私らのような者が買えるはずもない。
さぁ、家にお入り』
『ちくしょう!ちくしょう!』
涙をボロボロこぼしながら
力強く握った拳で地面を叩いた。
『私のせいだ!あの娘は…私が…私が!』
『ライラ。自分を責めるんじゃない。
神様にはきっと何かお考えがあるんだ』
『なんだよ神様って!
そんなのどうだっていい!
私は!あの娘が幸せになってくれたら!
あの娘が幸せになれるんだったら
命だってなんだってくれてやる!』
『ライラ…』
かける言葉を探すラメラの横で、
地面に転がったネックレスが
妖しい紫の光で覆われる。

『おや…ネックレスが…』
ラメラがネックレスを拾おうとした瞬間。
ゴオォッとライラから何かが天に向かって抜け、
それがネックレスに吸い込まれた。
暫く固まるライラ。
そのまま地面に倒れこんだ。
慌ててラメラが抱きかかえ大きく揺する。
『ライラ!ライラ!』
その声に再び返事をすることも、
目を開けることもなかった。
冷たくなっていく我が娘に
現実を突きつけられるラメラ。
ネックレスを憎んだ。
こんな物さえ無ければ!
こんな物、粉々にしてやろうか!
ふと、あるおとぎ話を思い出した。
願いを叶えるのと引き換えに
命を奪う呪われたネックレスの話。
これがそうだとしたら。
ラポラの身体が治らなかった理由は分からない。
でも、ライラはラポラの幸せを願い命を奪われた。
ラポラは幸せにならなければならない。
ライラの分まで。
どうするか悩んだ。
どうラポラに説明するか。
本当のことは話せなかった。
愛する我が子を家の裏に弔い、嘘をついた。
このネックレスを残して男と出て行った。と───
『ラポラ…あんたは…幸せに…ならなきゃ…
ならないんだ…』
『おばあちゃん…』
ラメラは最後の力を振り絞ってネックレスを掴み、
願う。
『こんな…今にも死にそうな…老いぼれの命だが…!
ネックレスよ…!ラポラの代わりに!私の命を!』
ネックレスは再び妖しい光を帯びる。
『おばあちゃん!ダメぇ!
私一人じゃ生きていけないよ!』
『今の…お前なら…大丈夫だ…』
『おばあちゃん!おばあちゃん!』
『生きろ…ラポラ…』

ラメラから何かが立ち上り
ネックレスへと吸い込まれ、
ラメラは動かなくなった。
『おばあちゃー-ん!』
ラポラはずっと泣き続けた。
泣き続け…
泣き続け…
泣き疲れ…
翌朝。
家の裏には
青白い光の熊におんぶされたラポラの姿があった。
青白い光の熊はラメラの亡骸を抱えている。
傍には青白い光の狼もいた。
『お母さん、ずっと見守ってくれてたんだ』
そこはラポラのベッドから見える裏庭の木、
その根元。
掘り返した跡があり、石が一つ置いてあった。
隣に青白い光の狼が穴を掘る。
その中にラメラをそっと寝かせ、
ネックレスを置いた。
その上に土をかぶせ石を置き、
二人の真ん中に夢見花を植えた。
二人に黙祷を捧げる。
『おかあさん、おばあちゃん。
行ってきます。この広い世界を見に』
前に向かって進むラポラ。
村を出る前にやるべきことがあった。
ギルドへ向かう。
ガチャリ
青白い光の熊がドアを開けると、
マスターがビックリした顔を見せる。
『なっ!?モンスタ…あっ?ラポラかい?』
『おはようございます。マスターさん』
『なんだい!?その熊は!?』
『私、こんな能力があったみないなんです』
『へええっ。
じゃあ自由に動けるようになったんだ。
ラメラさんも喜ぶねぇ』
『おばあちゃんは…亡くなっちゃって…』
『そうかい…お気の毒に…』
悲しそうな顔をするマスターを見て話題を変える。
『あの、私の依頼なんですけど…』
『あっ、そうそう。解決したんだってね?
でもお金は要らないって』
『そうなんです。
そのお金で次の依頼を出しなさいって』
『へーえ。粋なハンターもいたもんだ。
で、何にする?』
『「私を見かけたら声をかけてください」で!』
『変な依頼だね』
『いいんです』
ニコリと微笑むラポラ。
『分かった。出しとくよ』
『お願いします!』
挨拶を済ませ、
ギルドの外でおとなしく座って待っていた
青白い光の狼と一緒に、
村の外へと向かっていった。
その姿をギルドの屋根の上で見送る二人の男と
一羽のヒヨコがいた。
『あれならもう、大丈夫そうだな』
ウタリの言葉にイレンカはいつもの無表情で返す。
『依頼、受けとく?』
『当然だろ』
珍しく自分からサッと飛び降り
ギルドの中へ入っていくイレンカ。
でかいヒナを頭に乗せたウタリは少し嬉しそうだ。
『おや、昨日のハンターさん。
さっきラポラが依頼を出しにきてて…』
マスターの話を遮るように言う。
『それを受けに来た』
『おぉ、丁度良かったよ。
さっき出たばかりだから
すぐその辺にいると思うよ』
何も言わずに
できたばかりの依頼書に請負のサインをする。
『終わったらまた来てくれよ』
返事の代わりに
マスターをチラリと見てから外へ出る。
そしてウタリと共に、
ラポラが向かった方に背を向け
次の町へと向かっていった。

[第四章 完]
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この章(ラポラ)は
吉藤オリィ氏とその親友の番田雄太氏の影響を
強く受けています。
初めて知ったのはテレビのドキュメンタリーで
「変なロボット作ってる人だなぁ」くらいでした。
数年後に再び見た番組では
そのロボットで何を実現したいのかが主題で
ご本人に強く興味を引かれた記憶があります。
著書を買ったり
隣県で講演があると知れば聞きに行ったり
東京旅行に行った時は「DAWN ver.β」を
第一目的地にしたりしました。
「人生の先輩」という表現は
自分が聞きに行った講演で彼がされてたものです。
「乗ってて羨ましがられるカッコイイ車椅子」を
作りたいとも仰ってました。
車椅子への偏見を無くしたいと。
先に作ってしまたエピローグにも反映されてます。
昔のSFを科学技術の進歩で実現する、みたいに
ファンタジーを実現できるようになったらいいなぁ
と思いながら書いてます。
自分は何も開発してないけど!
ラポラ・カント
大空(カント)へ羽ばたく(ラポラポ)です。
彼女の八章・九章での活躍に、乞うご期待(°∀°)


