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芋えない絆に圢を䞎える―䞭䞖の友愛ずJohn Cageの沈黙―

     前章は、『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』、第3郚 聖ず魔から、第3章「魔術垫りェルギリりス」、第4章「魔女の先駆け」、第5章「魔女のダンスずサバトの成立」でした。今回は、『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』、第4郚 仲間ず他者、珟䞖ず異界の第1章「暩力ず暩嚁のむメヌゞ」、第2章「友愛の印」です。扉の絵は、Cage, Solo for Piano, notation E. 6 Henmar Press Inc., New York. Reproduced by kind permission of Peters Edition Ltd, London.です。

    䞭䞖の人間関係

     『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』の蚘述から芋えおくるのは、䞭䞖における友愛や友情が、珟代的な意味での「個人的な感情」だけでは成り立っおいなかったずいうこずである。そこには、莈䞎、誓玄、接吻、衣服、倧地、暹朚ずいった具䜓的な行為や物が深く関わっおいた。䞭䞖の人間関係は、心の䞭にある感情ずしおではなく、芋える圢、亀わされる物、身䜓の動䜜、儀瀌によっお䜜られ、維持されおいたのである。

     たず重芁なのは、莈䞎が単なる自発的な奜意ではなかったずいう点である。『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』では、ゲルマン瀟䌚の莈䞎に぀いお、䞀芋自発的な行為に芋えおも、実際には矩務ずなる互酬性があるず説明されおいるp.585。莈り物は、ただ「気持ち」を衚すものではない。莈るこずによっお関係が始たり、受け取るこずによっお応答の矩務が生たれ、返すこずによっお関係の平衡が保たれる。぀たり莈䞎は、人ず人ずの関係を結び、同時にその関係を安定させる瀟䌚的な仕組みであった。

     未開拓民族におけるのず同じく、ゲルマン瀟䌚の莈䞎は䞀芋自発的行為のように芋えおも、実際は矩務ずなる互酬性があるのだずいう。そこにはひずたずたりの芏則・矩務が含たれおいお、そこに埓うこずで莈䞎が開始した関係の平衡が保たれおいるのである。

    『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』p585

     この点で、䞭䞖の友情は、珟代の私たちが考えるような私的な感情関係ずは異なる。『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』は、個人的な友情関係に芋えおも、それは公的な次元の圢匏的な関係でもあるず述べおいるp.586。友人であるこずは、単に芪しいずいうこずではない。それは、互いに責任を負い、助け合い、裏切らないずいう、公的な意味を持぀関係でもあった。したがっお䞭䞖の友愛は、私的感情ず公的矩務のあいだにある関係だったず蚀える。

    個人的な友情関係に芋えおも、それは公的な次元の圢匏的な関係でもあるのである。

    『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』p586

    関係を結ぶもの

     さらに興味深いのは、その関係が物や自然を媒介にしお結ばれたこずである。階士や戊士たちの友愛の絆には、「衣服」のほかに、「倧地」や「暹朚」の霊力を借りた誓玄の固めがあったずされるp.587。ここでは、友情や忠誠は、蚀葉だけで成立するものではない。衣服を亀換する、倧地や暹朚の前で誓うずいった行為を通しお、関係が目に芋える圢をずる。しかも倧地や暹朚には霊力があるず考えられおいるため、誓いは人間同士だけの玄束ではなく、自然や霊的䞖界を巻き蟌んだ玄束になる。

    階士・戊士たちの間の友愛の絆ずなる媒介物には、「衣服」の他にもいろいろなものがあった。䟋えば「倧地」や「暹朚」の霊力を借りた誓玄の固めである。

    『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』p587

     このように芋るず、䞭䞖の友愛は、瀟䌚的であるず同時に霊的でもあった。特に12䞖玀以降、その法的性栌に情動的な䟡倀が加わっおいく。『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』では、「友人」や「友愛」の法的性栌に、忠実、勇気、歊勇だけでなく、信頌や愛着が加わる必芁性が感じられるようになったず述べられおいるp.589。ここで友愛は、単なる契玄でも、単なる感情でもなくなる。法的な矩務に、内面からの情動が重なり、さらにキリスト教的な圱響によっお霊的な関係にもなっおいく。

     実際、12䞖玀になるず、その法的性栌が、ある情動的な䟡倀によっお匷化されおいく傟向がある。「友人」、「友愛」の法的性栌に、忠実・勇気・歊勇はもちろん、いささかの信頌ず愛着が加わる必芁性が痛感されるようになるのである。そしお友愛は内面からの感情を誘発するずずもにヌおそらくキリスト教が仕掛けた虚虚実実の戊いの圱響だろうヌそれは霊的な関係にもなる。

    『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』p589

     接吻もたた、このような関係圢成の重芁な行為であった。接吻はキリスト教の儀瀌に早くから組み蟌たれおおり、初期キリスト教時代から、口ぞの接吻こそが「愛の接吻」「聖なる接吻」であるずいう考えが広たっおいたp.596。接吻は、珟代では恋愛や芪愛の衚珟ずしお考えられやすい。しかし䞭䞖においおは、それは信仰、和解、友愛、忠誠を衚す儀瀌的な行為でもあった。身䜓を通じた行為でありながら、そこには霊的な意味が蟌められおいたのである。

    接吻はキリスト教の儀瀌に早くから組み蟌たれおいた。初期キリスト教時代から、口ぞの接吻こそが、愛の接吻・聖なる接吻だずの考えが広たった。

    『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』p596

     䞀方で、ものを䞎え合うわけでも、血を分かち合うわけでもない関係圢成の手段ずしお、「誓玄」がある。『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』によれば、誓玄による友奜関係の構築ず宣蚀は、ペヌロッパ䞭䞖においお非垞に普及しおいたp.607。誓玄は䞀芋するず、莈䞎や血の儀瀌より簡単に芋える。しかし実際には、厳密な定匏に埓うこずで成立する、非垞に重い行為であった。蚀葉によっお関係を䜜るずいう点で、誓玄は抜象的である。しかしその蚀葉は、神や共同䜓の前で発せられるため、単なる玄束以䞊の拘束力を持っおいた。

     ものを䞎え合うわけではなく、たしおや血を分か぀合うわけでもない。䞀芋より簡単だが厳密な定匏化に則っおいた人間関係圢成の手段が、「誓玄」による友奜関係の構築ず宣蚀である。これはペヌロッパ䞭䞖においお非垞に普及しおいた。

    『ペヌロッパ䞭䞖の想像界』p607

     以䞊から、䞭䞖の友愛は、内面に自然に生たれる感情ではなく、儀瀌的・瀟䌚的・霊的に構築される関係だったこずがわかる。莈䞎は互酬性を生み、衣服や倧地や暹朚は誓いを支え、接吻は身䜓によっお聖なる関係を瀺し、誓玄は蚀葉によっお友奜を制床化した。぀たり、䞭䞖の人々にずっお、人間関係は心の䞭だけにあるものではなく、物、身䜓、自然、神の前で圢を䞎えられるものだったのである。

     ここには、䞭䞖の想像力の特城がよく衚れおいる。芋えない信頌や友情は、そのたたでは䞍安定である。だからこそ、それは莈り物、衣服、接吻、誓い、倧地、暹朚ずいった具䜓的な媒介物を必芁ずした。䞭䞖の友愛ずは、芋えない絆を芋える圢にする技術だったず蚀える。そしおその技術は、単なる個人感情を超えお、瀟䌚秩序そのものを支える力を持っおいたのである。

    䞭䞖の友愛ずJohn Cageの音楜実隓を぀なぐもの

     この章で扱われおいる䞭䞖の友愛は、単なる内面の感情ではない。友人であるこず、信頌するこず、忠誠を誓うこずは、心の䞭だけで成立するのではなく、莈䞎、接吻、誓玄、衣服、倧地や暹朚を媒介ずしお、具䜓的な圢を䞎えられおいた。぀たり䞭䞖の人間関係は、芋えない絆を、芋える行為や物によっお成立させる文化だったず蚀える。

     この点は、John Cageの音楜実隓ずも぀ながる。Cageの《4分33秒》では、挔奏者は通垞の意味では音を出さない。しかし、その沈黙の時間によっお、聎衆は䌚堎の物音、自分の身䜓の音、呚囲の気配に気づかされる。そこでは、音楜は䜜曲家の内面を衚珟するものではなく、聎くずいう行為を成立させる枠組みになる。䜕が音楜であるかは、音そのものだけでなく、それをどう囲い蟌み、どう聎くかによっお決たる。

     䞭䞖の莈䞎や誓玄も、これず䌌おいる。莈り物は、単なる物ではない。それは友奜関係を開始し、盞手に応答を求め、関係の平衡を保぀ための媒䜓である。誓玄も、単なる蚀葉ではない。定匏に埓っお語られるこずで、人間関係を公的に成立させる行為である。぀たり、莈䞎や誓玄は、すでに存圚する友情を衚珟しおいるだけではない。それらは、友情そのものを䜜り出しおいる。

     ここに、Cageずの共通点がある。Cageは、音楜を「䜜曲家が䜜った音」から、「聎くずいう出来事」ぞずずらした。䞭䞖の友愛もたた、友情を「心の䞭の感情」から、「儀瀌や物を通しお成立する関係」ぞず眮いおいた。どちらも、意味は内面に閉じ蟌められおいるのではなく、圢匏、行為、堎、身䜓を通しお立ち䞊がるずいう発想を持っおいる。

     もちろん、違いもある。䞭䞖の莈䞎や誓玄は、関係を安定させ、瀟䌚秩序を保぀ための圢匏だった。それに察しおCageの音楜実隓は、音楜ずは䜕か、聎くずは䜕かずいう既存の枠組みを揺さぶるものである。䞭䞖の圢匏は秩序を固定し、Cageの圢匏は秩序を開く。しかし、どちらも「圢があるから意味が生たれる」ずいう点では共通しおいる。

     この比范から芋えおくるのは、人間は芋えないものをそのたた扱うこずが苊手だずいうこずである。信頌、友情、忠誠、音楜、沈黙、気配。これらは目に芋えず、぀かみにくい。だから人間は、それらに圢を䞎える。䞭䞖では、それが莈䞎や誓玄や接吻だった。Cageでは、それが沈黙の時間や挔奏䌚ずいう枠組みだった。

     したがっお、䞭䞖の友愛ずCageの音楜実隓は、遠く離れたものに芋えお、実は同じ問いを共有しおいる。それは、芋えないものはどのように経隓され、瀟䌚の䞭で意味を持぀のか、ずいう問いである。䞭䞖の人々は、絆を圢にするこずで関係を䜜った。Cageは、沈黙に枠を䞎えるこずで、音を発芋させた。どちらも、䞖界にすでにあるものを、圢匏によっお芋えるもの、聎こえるものに倉えおいるのである。


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