「特にないです」が「実は、前から思ってて」に変わるまで
会議の最後に「何かある人はいますか」と聞いて、数秒の間のあと、誰も手を挙げないまま解散になったことはないでしょうか。
その日の議事録には、特に異論なし、と書かれます。
ところがその十分後、給湯室やチャットの個別スレッドでは、さっきの案件について話が続いていて、しかもそこで出ている中身のほうが、会議で出たどの発言よりも具体的だったりします。
あの場で言ってくれればよかったのに、と思ったことがあるはずです。
このとき多くのマネージャーが立てる仮説は、うちのチームはまだ心理的安全性が足りない、というもので、言いやすい空気をつくり、否定せずに聞き、まずは自分から弱みを見せることになります。
どれも間違ってはいないのですが、それを一年続けても、会議で手が挙がる回数はほとんど変わりません。
安全な職場をつくっても、人は黙ります。
言うのが怖いから黙っているのではなく、前に言ったことがどこにも返ってこなかったから黙っている、という場合のほうが多いからです。
聞く姿勢をつくり、否定もせずに受け止めてきたのに、それが効いていないというのは乱暴に聞こえるかもしれません。
ですが、黙り方にはいくつかの型があり、どの型で黙っているかによって、マネージャーが渡し忘れているものが何なのかが分かります。
この記事で扱うのは、次の四つです。
・沈黙の3類型と、時制による見分け方。
・「特にないです」と返ってきたあとの二の手と三の手を、相手の曖昧な返答の分岐まで。
・意見を集めると決めた日から、マネージャーの側に何が積み上がるか。
・そして、意見を聞いてはいけない場面。

黙るというのは、決めた結果です
まず、沈黙を「発言が無い状態」だと考えるのをやめるところから始めます。
ニューヨーク大学スターン経営大学院のエリザベス・モリソン教授が2023年に発表した総説の中で整理しているのは、沈黙とは情報を持っている人がそれを意図的に差し控えるという、能動的な決定だという点です。
つまり、黙っている人は何も持っていないのではなく、持ったうえで出さないと決めています。
そして、その決定は2つの計算で下されます。
1つは、これを言って自分が損をしないかという計算で、もう1つは、言ったところで何かが変わるのかという計算です。
モリソン教授はこれを安全性と有効性と呼んでいますが、現場の言葉にすれば「言いにくい」と「言っても無駄」の2つですので、以降はこの2つで進めます。
大事なのは、この2つが両方とも満たされたときにだけ発言が起き、どちらか一方が欠けた時点で沈黙が選ばれるということです。
ですから、どれだけ風通しがよく、何を言っても怒られない関係ができていても、言っても無駄だと思われていれば人は黙ります。
心理的安全性を高める取り組みが効かないように見えるのは、その取り組みが間違っているからではなく、2つのうち片方にしか手を入れていないからです。
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