見出し画像

3. ナラティブが必要な理由

前の記事を読む

「ナラティブ」という言葉を、最近よく見かけるようになりました。マーケティングでも、経営でも、組織づくりでも。けれど「ストーリーと何が違うのか」と聞かれると、意外と答えにくいかもしれません。物語のことなのか、語りのことなのか。なぜ今、これほど注目されているのか。

ナラティブは、Narrative Teamingの土台にある考え方です。ここでいちど、その概念から丁寧に触れておきましょう。

ナラティブとは何か。 それはチームに何をもたらすのか。そしてなぜ、それほど大切なものが、放っておくと職場から消えていくのか。そこから、なぜ、Narrative Teamingが実践の「仕組み」にこだわるのかが見えてきます。

1|ナラティブとは

「語ること」と「語られたもの」

ナラティブは日本語に訳すのが難しい言葉で、一般的には、「語り」「物語」と訳されることが多いようですが、いくつかの意味を持っています。この言葉が面白いのは、「語る」という行為と、「語られたもの」という産物の両方を同時に意味するというころです。プロセスと結果が、ひとつの言葉に内包されているのです。

Narrative Teamingでは、ナラティブを、その関係性を育む性質も含め、こう定義したいと思います。

仲間との「語り合い」や、そこで行われる「意味づけ」を通じて、自分を含む周りとの共創的なストーリーを紡いでいく行為、および物語そのもの。

ナラティブと、ストーリーの違い

上述の日本語訳から、ナラティブとストーリーは同じ「物語」という意味だとよく混同されますが、この2つは概念が異なります。ナラティブは、出来事の連鎖。「〇〇した」「××になった」——ストーリーの断片がただ並んでいるだけの状態。そこにプロット(筋書き)が加わると、ストーリーになります。「〇〇した。しかし、××になった。そして——」。接続詞がひとつ入った瞬間に、その流れに「意味」が生まれます。

重要なのは、その意味づけをするのは自分自身だということです。「自分が主人公の物語」と訳されたりもします。ナラティブにおいて、物語の主人公は自分なのです。同じ出来事でも、どう意味づけるかで、まったく違う物語が生まれます。

「ミスをした」「怒られた」「立ち直った」というのは、ただの出来事の連鎖です。ここに、2種類のプロットを入れてみましょう。「ミスをした。だから、怒られた。それでも、立ち直った。」「ミスをした。やっぱり、怒られた。そのうち、立ち直った。」どうでしょう、2つの文章から主人公にとっての「ミス」がどんなものなのか、意味付けがわかる2つのストーリーになりました。

図1|ナラティブとストーリーの違い

出来事の連鎖に、プロットが加わることで意味が生まれる。
意味づけをするのは、いつも自分自身だ。

なぜ、いま「ナラティブ」なのか

組織や経営の文脈でも、「物語」の位置付けや重心が移り変わってきました。かつて語られたのは、ビジョン、そしてストーリーテリングです。どちらも主語は「会社」や「経営者」でした。会社の物語を、社員に伝える。

いま求められているのは、ナラティブ。つまり主語は「自分」の物語です。主人公が、会社から自分へ移ってきている。つまり、会社の計画や都合に合わせて「予定通りに進める力」だけでなく、「出来事を自分の物語に組み込む力」が問われる時代になってきているのです。

2|ナラティブの効果

語り合うことで、チームに何が起きるか

では、ナラティブを日常業務の中に取り入れる——つまりチームで語り合い、ストーリーを共に創ることで、どんなことが起きるのでしょうか。もちろん、様々な効果がありますが、わたしはこれまでの経験から、チームにナラティブを取り入れたとき起きる変化は、主には以下の3つと言えるのではないかと考えています。

本当の課題に、辿り着く

「語り合う」ことは、一見すると時間もかかるし非効率です。けれど本音を語る習慣は、建前や忖度による遠回りをなくします。表面的なやりとりや、ズレた認識をそのままにして業務を進めるより、結果、本質的な課題にはるかに早く行き着きます。

協働が、促される

課題解決の場面で、停滞が解消されやすくなります。「誰かがやってくれるだろう」といった消極性でも、「自分がやらなければ」といった抱え込みでもなく、全員で手を伸ばし合う姿勢が生まれます。背景を知っている相手のことは、放っておきづらいものです。

自分ごと化が、進む

ともに意味づけを繰り返すことで「みんなのストーリー」が紡がれます。その仕事が、関わる人にとって、自分の物語の一部になっていきます。主体性は、「他人事」では生まれません。その物語が「自分ごと」となって初めて、生まれます。

図2|ナラティブの3つの効果

日常の語り合いが、3つの変化をチームにもたらす。

一片のナラティブが、チームの次の道筋をつくる

仕事仲間との対話、協業パートナーとの対話。そこで交わされる、一見脈絡のない語り。それらは、大袈裟に言えば、その人が主人公である物語の一片です。その一片を知り重ねることが、ゆくゆくは、大きな道筋——そのチームや組織のストーリー、つまり、次に起こること、次の道筋をつくり出していきます。

3|ナラティブが排除されてしまう理由

大切なのに、放っておくと消えていくのはなぜ?

ここまで読むと、「では、語り合えばいいじゃないか」と思われるかもしれません。ところが、そう簡単ではない理由があるのです。とくに仕事の現場において、ナラティブは、放っておくと排除され消えていきます。理由は2つあり、そのどちらも、個人の努力では抗いにくいものですし、放っておくと排除自体が組織のカルチャーにさえなりがちです。

① ビジネスによる排除

ひとつは、ビジネスの構造そのものです。どんな職場でもよくあることですが、短期的なゴールが優先され、長期的なゴールは後回しになる。重要なことだと分かっていても、それぞれの言い分を聞いていたらきりがない——非効率だ、と判断され、排除すること自体がビジネスにとって合理的だと思われます。語り合いには時間がかかり、しかもその効果はすぐには見えません。だから、真っ先に削られていってしまうのです。

② 本能による排除

もうひとつの理由は、わたしたちの心のつくりそのものです。人には、自分が属する集団(内集団)と、属さない集団(外集団)を分けて捉える働きが本能的に備わっていて、内集団の側を無意識にひいきします。(社会心理学者のヘンリー・タジフェルらが行った、1971年の集団を分けて行った心理実験では、分ける基準はまったく無意味なもので、相手と直接やりとりするわけでも、ひいきしても自分が得をするわけでもなくとも、人は、同じ集団だと認識した相手を優遇しました。)

「本能的に」と書いたのは、これは危険を避けるために備わった心の働きだからです。多様な背景を持つ人が集まるチームでは、この働きがそのまま「異質な語りの排除」として現れます。自分と違う前提から出てきた言葉は聞き流され、「向こうはそうだよね」「まあ、あの人はそういう人だから」で処理されてしまう。

そして厄介なことに、この力は結束の固いチームほど、強く働きます。仲間意識が高まるほど「こちら側」の輪郭がはっきりし、そこからはみ出す語りが排除されやすくなるのです。

図3|ナラティブが排除される2つの理由

ビジネスの論理と、人の心のつくり。ナラティブは両側から締め出される。

+α|「雑談しましょう」ではダメな理由

「じゃあ、いっそ仕事から切り離し、雑談をする場を設けたらどうだろう。」そう考える人もいるかもしれません。実際、リモートワークが普及する中で、オンライン雑談に取り組んだ経験のある方もいるでしょう。けれど、雑談の時間を増やすだけでは、うまくいきません。

それは、みなさんの中にも実感があるかもしれませんが、それぞれのメンバーのモチベーションに直結しているのは、実は、ちょっとした違和感、不満、喜びなどの感情で、それらは、「さあ、今から雑談しましょう」と言われて、出てくるものではないからです。

必要なのは、仕事の目的を意識しながらも、まとまらない話——感じていること、考えていること、なぜそれをするのか、もしくはしないのかという背景にある理由——を普段から交換し合う習慣です。そして、その習慣を生み出す仕組みを持つこと。
それが、チームの相互理解、つまり関係性の質へとつながっていきます。

ナラティブは、人が意味をつくり、関係性をつくるための、根源的な営みです。けれど、放っておけばビジネスの現場では失われていきます。これが、「対話を大事にしよう」という掛け声や努力だけでは足りない理由です。

ナラティブは日常の中に、仕組みとして組み込む必要がある。これがNarrative Teamingがパターン(ヒント)とプラクティス(コツ)という小さくて具体的な道具にこだわり、誰でも扱えるようにした理由です。次のページでは、この「対話を日常に実装する」ことについて、もう少し詳しくみていきます。

▼ナラティブチーミング・ラボとは?


いいなと思ったら応援しよう!