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『静かなる力』気功師・浜嶋正憲(エンタメ原)エピソード11

エピソード11

  

襲撃・新たなる策略


1. 台所

萬福寺の台所
奥さんが弁当箱におかずを詰め込んでいた。
おにぎりとおかずが重箱に詰められ蓋がされ、風呂敷で包まれた。
「恵理子、恵理子、」台所から奥さんは大きな声を出していた。
恵理子はけだるそうに台所に顔を出す。
「なあに、お母さん………」
「悪いけど、これ持って行って、大学に、今日学園祭で浜島先生と田代君
気功体験会をやっているから………ねっ」
恵理子は不機嫌な顔をして、
「あの人、独身なんだよね、なんかさ、変わってるよね」
「わたしのタイプじゃないけどさ」
「何言ってるの、あんたはチャラい男が好きなんだろ」
「イケメンで軽い男がお似合いかも」
「バカ言わないで、中身よ、そう中身大事よ」
「でもね、先生と恵理子では人間レベルが違い過ぎるか」
「私が、低いって言うの」
住職が台所にひょっこり顔を出して
「外面に磨きをかける人間と、中身に磨きをかける違いだな」
そう言いながら、テーブルの上にある弁当の余ったおかず、から揚げを一つまみ
口の中に放り投げた。
「見掛け倒しという意味?」
「30過ぎているんだから、心に磨きを掛けなさい」
住職は真顔になって、口をもぐもぐさせながら背を向け本堂に向かった。
恵理子は黙って風呂敷を掴み台所の勝手口から出ていった。
「じゃぁ、お母さん言ってくる」
 
2. 学園祭
 
 小講堂で浜嶋と田代、そしてスタッフが4名ほど、希望者を出迎えていた。
 入り口には “気功療術無料体験会”
 たまたま学園祭を見学に来た人たちが、興味本位で小講堂に足を運んでいた。
 しかし、口コミやSNSでまたたく間に人が増えていった。
高齢者の参加者も目立った。
 学園祭に取材に来ていた地元のマスコミ、地元新聞、ラジオ、テレビの取材も興味があるのか、いささか注目が集まっていた。
浜嶋は、次々と体験希望者に、手を軽く体に触れ、気を送っていた。
肩こり、冷え性、便秘等
目の疲れ、腰の痛み、背中の痛み、そういった軽度な人が多く、体験希望者たちは騙されたような顔をしていたが、体験後は目を丸くして驚いていた。
田代は浜嶋の姿を黙って見ていた。
「田代君、やってみるか」
人がこんなにも多く、注目されながら療術をするのは初めて、気持ちが落ち着かず、周りをキョロキョロしていた。手には汗、額にも汗がにじんでいた。
「緊張するか」
「はい」
田代は震える声で答えた。
「大丈夫、毎日の修行を思いだせ」
腰痛持ちの中年の女性だった。
田代は気持ちを落ち着かせようと、何度も深呼吸をした。
浜嶋は少し心配そうに田代を見つめていた。
しかし、田代が何度も気を送っても、中年の女性は、痛みは消えなかった。
浜嶋は見かねて、田代に代わり療術を行い、その場をしのいだ。
「田代君、気持ちが乱れたら、気は流れない、常に冷静だ。
変わらぬ心でこそ、気を操れるんだ」
「先生………」
 田代は、自分のレベルがまだまだなのを痛感した。少しばかりできるようになったことで、調子に乗っていたのかもしれない。
田代は恥ずかしくなった。
体験会の様子はSNSで生配信されていた。
     *
 
病室で、山本はスマホを横に持ち、妻さとみと一緒に研究生が配信している
生中継を夢中で見ていた。
 
     *
小講堂の後部席で腰を下ろし、お弁当を届けに来た恵理子は黙って様子を見ていた。
山本の研究生たちが、機材を準備し浜島の協力のもと、
学生たちは
 
「本日、我々は“気功”と呼ばれてきた現象を科学的に測定した結果を発表します」
 
次の瞬間、スクリーンに衝撃的なデータが映し出された。
スクリーンに映し出されたのは、患者の脳波や心拍のリアルタイム変化。
 浜嶋や田代が手をかざすと、通常では説明不可能な同期現象が起き、免疫関連の数値が急上昇していた。
「これは偶然ではありません。被験者全員に同様の反応が見られました。
 すなわち“気”は単なる迷信ではなく、物理的影響を及ぼす“生体波動”と定義すべきです」
会場はどよめいた。スマホで動画を取る者、マスコミたちのカメラフラッシュ
が一斉に光る。
学会で発表できなかったことを学生たちが、山本の代わりに学園祭という方法で発表した。
そして成功に終わる。
恵理子は一番後ろで、浜島正憲という人間を瞬きもせず見つめていた。
自分とはカテゴリーが違い過ぎた
人のために無償で奉仕する姿に、吸い込まれるように見ていた。
“女が男に惚れる”とは全く違う、別次元の感情が心の奥底で火種のように燻りはじめた。
 
 気功体験会も終了し、マスコミや体験希望者たちは帰っていった。
 スタッフの責任者は山本に報告をしていた。
他のスタッフたちは忙しそうに、後片付けをしている。
 最後まで残っていた恵理子が、浜嶋のそばに寄って来た。
「先生、本当に凄い人なんですね」
田舎の大学では似合わない都会の垢抜けた少し派手な服装の恵理子、外見は誰が見ても美人だ。
「先生って、本当に欲がないんですね」
浜嶋と田代は無言でパイプ椅子を片付けていた。
そこへ、母親と小学校5年生の少年が小講堂に入って来た。
「すみません、もう終了しました」
学生スタッフが頭を下げながら説明する。
母親は残念そうな顔をして、
「SNSの動画配信を見て飛んできたんですけど、間に合わなかったみたいですね。ごめんなさい」
母親は子供の手をしっかりと握っていた。子供の名前は徹、白い顔に瘦せた体、先天性の心臓病を抱えていた。
手術は受けているが根治には至らず、医師からは「長くはない」と告げられていた。
浜嶋と田代は母親と子供を見るなり、
「構いませんよ、こちらにどうぞ」
そう言って浜嶋は折りたたんだパイプ椅子を2つ並べた。
「田代君、できるね」
会場にはもう誰もいない、スタッフが二名、掃除をしていた。
恵理子はどうして? と言った顔をして黙って見ていた。
「奥さん、こちらへ」
母親は申し訳なさそうに、何度も頭を下げ、椅子に子供を腰掛けさせた。
田代は少年の目を見た。
 「よお、元気か?」
 「……全然。俺、もうすぐ死ぬんでしょ」少年は細い声で小さく呟いた。
 「君、名前は」
「徹です」
「徹君か、俺は英治だ、よろしく」
田代は、少年の目を見つめる。何かを感じたのか
胸が詰まった。息が苦しい。少年の感情が流れ込んでくるようだった。
押し潰されるような胸の痛み、倦怠感、死を覚悟した少年の心、
妹の最期の姿が重なって見えた。
だが心を支えることはできる
―気は万能ではない― 
―心を癒やしてこそ、真の気功師だー
浜嶋の言葉を思い出した。
田代は深く息を吸い、ゆっくり話した。
 「なあ徹、死ぬのは誰でも怖い。でもな、お前の命は今ここにある。今日こうして笑ったら、死ぬまで“笑った時間”は本物だ。俺は……妹を救えなかった。でもな、最後まで一緒に笑ってやりたかったって、ずっと後悔してる」
少年の目が揺れた。
 「……僕も、笑ってもいいの」
 「もちろんだ。笑った分だけ、お前は生きた証を残せる」
田代は手をかざし、ゆっくり気を送った。
 少年の顔に赤みが差し、ふっと微笑みが浮かんだ。
母親はその姿を見て涙がこみ上げていた。目頭をハンカチで押さえている。
久しぶりに子供の笑顔を見ることができた。
それを見ていた恵理子は恥ずかしくなった。
今までの好き勝手に生きてきた人生がとても恥ずかしく思えてきた。
何故か自然と背を向けていた。
 
3. 守る者たち
 
萬福寺の軽自動車が街道を走る。予定は後れ、夕暮れから夜へと変わる
後部座席で恵理子は窓の外を眺めていた。
自分のいい加減な人生が脳裏に鮮明に蘇る。クラブを遊び歩き、
チャラい男たちと夜の街を遊び歩き、そして騙される日々、外見はイケメンだけど
中身は何もいなかった。紙一枚のように薄い。
外灯の光が何度も目の前を過ぎていく。
浜嶋は助手席で、無言のまま座っていた。
田代も運転に集中していて一言も話さない。
それが、恵理子にとってよけいに胸を苦しめた。
狭い交差点、萬福寺まではもう少しの距離、他に車も無く、田代は前方をしっかり見ながらハンドルを握っていた。
その時、突然大きな音と共に衝撃が走った。
トラックが軽のフロントをかすめた。
慌てて田代は急ブレーキをかける。
そして、バイクのエンジン音が響き渡る。トラックからも男が降りてきた。
覆面をしている。バイク6台、二人乗りのバイクは軽の前に停まり、鉄パイプと
チェーンを振り回している。13人の半ぐれ集団は理由もなく襲いかかった。
軽自動車の窓を鉄パイプで次々に割って行った。
覆面をしているので、わからないが、雰囲気からしてまだ十代の少年にも見える。
3人は車から降りた。恵理子を守るように、浜嶋と田代は彼らの攻撃に備えた。
浜嶋は防御に徹しながら相手を倒していく。
田代は恵理子を守りながら応戦した。
鉄パイプで背中を叩かれ、倒れ込みそうになる田代。
それをかばうように浜嶋が攻撃をブロックする。
13人の刺客は思った以上に手ごわい、浜嶋は恵理子を守るため、本気を出した。元傭兵の格闘技は健在だった。
浜嶋の姿を見ていると、不思議と恐怖はなかった。
どこからか矢が飛んでくる。田代はとっさに恵理子をかばい、自分の背中、肩にクロスボーの矢が突き刺さった。
痛みに耐える田代、その目を見て、恵理子は今
自分たちが置かれている状況を理解できた。
命が狙われている。
人はあまりにも現実離れした光景に突然出会うと、それを理解するまで時間がかかるものだ。思わず恵理子は自分の手で口を塞ぎ、恐怖がこみ上げてきた。
浜嶋は既に4人倒した。
殺してはいない。気を失っているだけだ。
田代は矢を抜き、身構える。
矢が浜嶋へ飛んでくる。手でそれを弾く。
手前の一人がナイフを取り出し構えた。
浜嶋はイラクでの戦闘がフラッシュバックされた。
    *
イラク戦闘地、市街戦、ほとんどの敵は撤退した。
廃墟となった家を確認する傭兵部隊、浜嶋も誰もいないと思われる廃墟へ確認、足を踏み入れる。
いきなりナイフで襲い掛かって来る。敵兵、実弾は使い切り、ナイフしかない
大柄な男は、小柄な浜島を見て、余裕の笑みを浮かべた。
ナイフが容赦なく振りかざされる。
浜嶋はうまくかわし、ナイフを持つ腕をつかむと関節を逆にとり、合気道の技をかける。相手は大きく回転し倒れた。
それでも敵は直ぐに立ち上がり、攻撃する。
浜嶋は相手の左膝へ関節蹴りを放った。関節が逆に曲がり、男は悲鳴を上げて倒れ込む、ナイフを持つ腕を逆にひねり、関節を外した。
相手はもう動けないはずだった。
それでも足と手をかばいながら、向かってくる。片足で立つ足を、柔道の足払いのように
勢いよく払った。敵は倒れ、それ以上動くことはできなかった。
「止めを刺せ」 そう聞こえた。
「もうお前は戦えない、これで終わりだ」
そう言って浜嶋はその場を後にした。
男は懐から写真を出し、キスした。写真には幼い子供が2人映っていた。
      *
ナイフが勢いよく浜島に襲い掛かる。
攻撃をうまくかわす。
その時、白のベンツが1台、勢いよく走り込んできた。
車から降りてきたのは経堂とその部下たち、
百戦錬磨の男たちだった。
次々と少年を倒していく。しかも素手で
勝ち目なしと判断したのか、半ぐれ集団はバイクに跨り、慌ててどこかに逃げていく。
「先生、危なかったですね」
「すまない」
「会長の遺言なので、守らせていただきますよ」
白のベンツは軽自動車を護衛しながら萬福寺まで見送った。
参道の階段を上がりながら、恵理子は走り出した。
「お腹空いたでしょ、ご飯用意するね」
そう言って先に走って行った。
途中で立ち止まり
「ゴメン、田代君、怪我してるでしょう、大丈夫?先に手当てしましょう。」
背中を押さえる田代。
「今になって痛み始めた。でも傷は浅いですから心配はいりません」
「だめ、早く来て」
 恵理子は田代の手を取り、引っ張るように階段を上がって行った。
浜嶋は目を少し細めて見ていた。
 
 

4. 失敗


町はずれのスクラップ場、そこに先ほどの半ぐれ達がいた。
田代の昔仲間だった登坂裕司は空き缶を、半ぐれの体に投げつけた。
「失敗したら、金はもらえないんだよ、どうすんだよ」
「邪魔が入ったんだよ……」
そう言って半ぐれリーダーの少年は下を向いた。
「くそっ、金、金だよ、チクショウ」
地面に落ちているスクラップのパーツを拾い、スクラップの山に投げつける。
音と共に山になっていたスクラップが少し崩れ落ちた。
裕司の奇声は犬の遠吠えのように響いた。
「チクショー………」
 

5. 新たな計画


野口製薬株式会社、社長室
椅子にもたれながら、足をデスクの上に投げ出して、受話器を手にしていた。
「根津さん、奴はプロですよ、プロにはプロで………」
「野口社長、私は関係ないですからね」
「何を言っています。お互いの利益を守るためです」
「アメリカに、伝手(つて)があるんです。任せてください」
「わかった、もう終わりにしてくれ」
 

エピソード11 完

つづき 
エピソード12
https://note.com/ohno3819/n/n543db180223b
 


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