ルームシューズにご注意を。
介護施設って、基本的にフローリングのところが多い。
だから、利用者さんには部屋の中でも靴を履いてもらう。
スリッパだと、歩いている途中に脱げたり、
滑ったりして、転倒のリスクが大きい。
クロックスのようなサンダルタイプも、
歩行が不安定な人には危険がある。
なので、施設では、
「部屋履き用の靴を用意してください」
とお願いすることが多い。
ところが。
高齢者の方って、だんだん足に浮腫が出てくる。
今まで普通に履いていた靴が、
いつの間にかきつくなって、入らなくなる。
そこで出番になるのが、介護用の靴。
介護用の靴にも、いろいろある。
歩くための靴底がしっかりしたタイプ。
そして、足を締め付けにくい、
柔らかいルームシューズのようなタイプ。
どちらがいいかは、その人の状態によって変わる。
「介護用の靴だから大丈夫」
ではない。
その人が、どういう状態なのか。
そこを見ないといけない。
以前、車椅子を使っているお婆さんがいた。
自分で歩いて移動することはできない。
立ち上がりには介助が必要。
膝には拘縮があり、伸びたまま。
それでも、立位はある程度の時間なら取ることができた。
そして何より、本人には、
「トイレに行きたい」
という意思があった。
だから、立ち上がりを介助して、なんとかトイレまで連れて行く。
本当に、ギリギリ。
歩けるわけではない。
でも、本人が行きたがっている。
だから、できるうちはトイレで排泄してもらいたい。
そんな状態だった。
そのお婆さんが履いていたのが、
柔らかいルームシューズタイプの靴だった。
足には浮腫もある。
普通の靴が難しいのも分かる。
でも、その靴でトイレ介助をするたびに、私はヒヤヒヤしていた。
立ち上がってもらうと、足が靴の中で少しずつ滑る。
しかも、柔らかいルームシューズだから、靴そのものもぐにゃっと変形する。
すると、靴底ではないところまで床に接地して、靴ごと少しずつ滑っていく。
一気にズルッといくわけじゃない。
少しずつ、少しずつ。
だから余計に厄介。
本人の身体を支えながら、別の介助もしなければならない。
足元は、少しずつズレていく。
難易度、高すぎるやろ(笑)
転倒させるわけにはいかない。
でも、ずっと足元だけを見ているわけにもいかない。
そんな状態で、私は毎回ヒヤヒヤしながらトイレ介助をしていた。
しばらくして、その靴もだいぶくたびれてきた。
そこで、買い替えをお願いした。
「今の靴、だいぶくたびれてきたので、買い替えをお願いします」
そして、しばらくして。
新しい靴が届いた。
私は見た。
見覚えのある形。
「あれ?」
よく見る。
色が違う。
「…………」
きれいだね。
し、ん、ぴ、ん?
「ちょーまて!!」
いやいやいや。
新品かどうかじゃない。
同じタイプの靴やん!!
私は上司に言った。
すると上司も、
「ケアマネと一緒についててもらったはずやねんけど……」
「ちゃんと言ったんやけどなぁ……」
と、困った顔。
いや、私も困る(笑)
誰か一人を責めたいわけじゃない。
ちゃんと伝えた。
ケアマネにも付き添ってもらった。
それでも、届いたのは色違いの新品。
でも、このお婆さんに必要だったのは、
「新しい靴」
ではなく、
「今の身体の状態に合った靴」
だった。
車椅子だから、靴は何でもいいわけじゃない。
歩けなくても、移乗のときには立つ。
このお婆さんは、まだトイレに行きたかった。
介助すれば、なんとか立てた。
だから、その「なんとか」を支えるために、足元の安定が必要だった。
その後、しばらくして。
トイレ介助そのものが難しくなった。
本人の意思があっても、もうトイレまで連れて行くのが難しい。
トイレ介助はなくなった。
それでも、移乗のときには立ってもらう。
でも、それも少しずつ大変になっていった。
今思えば、そのお婆さんは、
身体のほうが、靴に合っていってしまったんだと思う。
本当なら、靴を本人に合わせたかった。
「今の身体に、この靴は合っていない」
そう思って、買い替えをお願いした。
でも、その後の身体の変化は、こちらが靴を選び直すより早かった。
できていたことが、少しずつできなくなっていく。
トイレに行けていたのが、行けなくなる。
立てていたのが、立つのも大変になる。
そして、いつの間にか、
「この靴で歩くにはどうしたらいいか」
ではなく、
「この靴で移乗するにはどうしたらいいか」
になっていく。
介護用品って、
「介護用」
と書いてあれば、誰にでも合うわけじゃない。
その人が歩くのか。
立つのか。
移乗するのか。
足がどう動くのか。
拘縮があるのか。
浮腫があるのか。
どんな介助が必要なのか。
同じ車椅子の利用者さんでも、必要な靴は違う。
そして、その人に必要なものも、ずっと同じとは限らない。
介護の仕事をしていると、
「その人に合ったものを選ぶ」
ということの難しさを、時々思い知らされる。
新品の色違いのルームシューズを見て、
「ちょーまて!!」
と怒っていた私だけど。
今振り返ると、あのとき私が守りたかったのは、靴そのものじゃなかった。
その人がまだ持っていた、
「自分でトイレに行きたい」
という気持ちと、
それを叶えるために残っていた、
その人のほんの少しの力、
だったのかもしれない。
今回、「しりとりエッセイ」という企画で
やっくんさんから
「る」のバトンをいただきましたので、
書いてみました。
ひねり出した感がありました。
でも面白かったです。
ありがとうございます!
初めての参加だけど、
残り一週間で結構参加されてる方が多いようなので、
私はバトンを渡さないでおきます。
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最後まで読んでくださって、ありがとうございます😊
「読んでよかった」「また読みたい」と思ってもらえたら、チップで応援してもらえると嬉しいです。
また、ぼちぼち書いていきます(笑)