母との関係は、わたしの原点⑤ 〜誰かを理解することと、自分を大切にすること〜
④では、
「大切なのは、揺れないことではなく、
揺れても自分に戻ってこられることなのかもしれない」
そんなことを書いた。
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母との関係を17年間見つめてきて、
もう一つ気づいたことがある。
それは、
相手を理解することと、
相手の感情を背負うことは違う。
ということだった。
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わたしは長い間、
「どうして母は、こんなふうになるんだろう」
と考えてきた。
母には、母なりの苦しさがあるのかもしれない。
そう思って心理学を学び、
境界性パーソナリティ障害というものを知った。
そして、
「母自身も、自分の感情をどう扱ったらいいのか分からなかったのかもしれない」
そう考えられるようになったことは、
わたしにとって大きかった。
でも、そこからもう一歩進んでみると、
相手を理解することと、
自分が我慢することは違う。
ということに気づいた。
⸻
そして、HSP(Highly Sensitive Person)という気質について深く知ることで、わたし自身のことも少しずつ分かるようになった。
わたしは、自分の気持ちを感じるのと、
ほとんど同じくらいの速さで、
相手の感情や、その場の空気を読み取ってしまう。
相手の表情。
声のトーン。
その場の空気。
ちょっとした言葉の変化。
そういうものを、一瞬で感じ取ってしまう。
そして、
「今、この人は何を感じているんだろう」
と考える。
さらに、
「どうして、そう感じたんだろう」
「何か嫌なことがあったのかな」
「きっと、こういう事情があるのかもしれない」
と、その人の背景や事情まで考え始めてしまう。
それは、人を思いやる力でもあると思う。
相手の気持ちに気づけること。
困っている人がいたら、
何が必要なのか考えられること。
言葉になっていないものを感じ取れること。
それは、わたしらしさの一つでもある。
だから、この感覚をなくしたいとは思わない。
それが、わたしだから。
ただ、相手の気持ちを受け取るのが早すぎて、
自分の気持ちを後回しにしてしまうことがある。
そこに、わたし自身が気づいていなかった
苦しさがあったのだと思う。
たとえば、
「本当は嫌だな」
と感じた瞬間に、
「でも、相手も大変なのかもしれない」
「きっと悪気はなかったんだろうな」
「ここで断ったら、相手が困るかもしれない」
「わたしが我慢すれば、丸く収まる」
そんなふうに、次々と考えてしまう。
そして気づいたときには、
最初に感じた
「なんとなく嫌だな」
という自分の気持ちが、どこかへ引っ込んでいる。
相手が言葉にする前に、
先回りしてしまうこともある。
「これをしたら、相手はどう思うかな。」
「こう言ったら、傷つけてしまうかな。」
「今は、こうしておいたほうがいいかな。」
そうやって相手のことを考えているうちに、
いつの間にか、
自分の本当の気持ちを引っ込めてしまっている。
そんなことが、わたしにはたくさんあった。
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でも、
相手の気持ちが分かったからといって、
その気持ちを、わたしが背負わなくていい。
相手に事情があるからといって、
わたしが我慢しなくていい。
相手が苦しんでいるからといって、
わたしまで苦しまなくていい。
そのことが、
少しずつ分かってきた。
⸻
もしかしたら、わたしはずっと、
「やさしい人でいなくちゃ」
「相手のことを理解しなくちゃ」
「相手を傷つけないようにしなくちゃ」
そう思うあまり、自分が我慢することが
やさしさだと思っていたのかもしれない。
でも、今は違うと思う。
相手の気持ちを大切にしながら、
自分の気持ちも大切にしていい。
相手の気持ちや事情を受け止め、理解した上で
「でも、わたしは嫌だ」
「今日はできない」
「今は距離を置きたい」
「それは、わたしには苦しい」
そう思ってもいい。
それは、冷たいことではない。
⸻
「境界線」という言葉を知ったとき、
最初はどこか冷たいもののように感じていた。
人との間に線を引く。
相手を拒絶する。
距離を置く。
そんなイメージがあったから。
でも、今は少し違って感じる。
境界線は、
相手を遠ざけるための線ではなく、
自分を大切にするための線。
そんなふうに感じる。
ここまでは、わたし。
ここからは、あなた。
あなたの感情は、あなたのもの。
わたしの感情は、わたしのもの。
その境目を大切にすることは、
自分のことも、相手のことも、
ひとりの人として大切にすることなのかもしれない。
⸻
母には母の人生がある。
母が抱えてきたものも、
母自身にしか分からない。
それを、わたしが背負う必要はない。
わたしには、わたしの人生がある。
わたしにも、
大切にしたい人がいる。
大切にしたい暮らしがある。
好きなことがある。
やってみたいことがある。
そして、
わたし自身の気持ちがある。
それを大切にしていい。
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母を大切にすることは、
自分の気持ちを後回しにすることではない。
わたしが、自分の人生を生きることは、
母を見捨てることではない。
ずっと、
「どうしたら、母が幸せになるんだろう」
と考えてきた。
でも今は、
「母を幸せにすること」よりも、
「わたしは、どう生きたい?」
と、自分に問いかけたい。
⸻
わたしは今でも、
空気を読みすぎたり、
相手の気持ちを先回りして、
自分の気持ちを引っ込めてしまうことがある。
でも、
「あ、今、また自分の気持ちを
置き去りにしようとしている」
と気づけることが増えてきた。
そして、
「わたしは、どう感じている?」
と、自分に問いかけてみる。
すぐに答えが出なくてもいい。
少し時間がかかってもいい。
まずは、自分の気持ちに気づく。
そんなことが、少しずつできるようになってきた。
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母との関係をどうにかしたくて、
始まった17年間の旅。
母を理解したかった。
母の苦しさを知りたかった。
どうしたら、わたし自身がもっと楽になれるのか知りたかった。
その旅の途中で、
わたしは自分自身のことを少しずつ知るようになった。
そして今、
母を理解することから始まった旅は、
自分自身を理解することへとつながっている。
誰かの人生を背負うことより、
自分の人生を生きること。
それが大切なのだと感じている。
これは、わたしと母との関係に限ったことではないのだと思う。
相手の気持ちを考えすぎてしまう人。
相手の事情を理解しようとするあまり、
自分の気持ちを後回しにしてしまう人。
そんな人にも、
同じことが言えるのかもしれない。
相手を理解できる、
あなたのやさしさを手放さなくていい。
そのやさしさを、
自分自身にも向けてほしい。
自分を大切にすることと、
誰かを大切にすることは、
きっと両立できるから。
⸻
母との関係は、
今もわたしの中にある。
母がいなくなっても、
わたしの中にずっとあり続けると思う。
その長い長い、切っても切れない関係の中で、
もがきながら気づき、受け止めてきた、
「わたし」という一人の人間。
母には母の人生。
わたしには、わたしの人生。
そして、
わたしは、わたしの人生を
自分の足で歩いていく。
――⑥へ続く。
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