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民草が紡ぎし絵巻 第28巻 雨を待つ老人


雨が、

降らなかった。

昨日も。

その前の日も。

夏の陽が、

田を照らしている。

老人は、

畦に立っていた。

稲は、

青い。

まだ、

枯れてはいない。

けれど、

田を満たしていた水は、

少しずつ減っている。

老人は、

しゃがみ込んだ。

土へ、

指を触れる。

立ち上がり、

水路を見る。

細い水が、

静かに流れている。

まだ、

水は来ている。

しかし、

いつまで続くかは分からない。

老人は、

山を見た。

雲はない。

「降るか。」

後ろから、

若者の声がした。

老人は、

空を見たまま答えた。

「分からん。」

若者は、

少し意外そうな顔をした。

老人は、

長く生きている。

田のことも、

水のことも、

自分よりずっと知っている。

若者は、

老人なら、

雨がいつ降るのかも知っているような気がしていた。

「昔も、

こんなことがあったか。」

「あった。」

「その時は、

いつ降った。」

老人は、

少し考えた。

「降った。」

「いつ。」

老人は、

若者を見た。

「忘れた。」

若者は、

黙った。

老人は、

また空を見上げた。

長く生きれば、

何でも分かるようになるわけではない。

雨の少ない夏を知っている。

大水の年も知っている。

風に稲が倒れた秋も知っている。

けれど、

昔と同じ空が、

同じ雨を運んでくるとは限らない。

老人は、

水路へ向かった。

流れを確かめる。

詰まっていた草を取り除く。

崩れかけた土を、

手で押し戻す。

今できることを、

一つずつする。

それが終わると、

もう一度、

田を見た。

稲は、

風に揺れている。

老人には、

雨を降らせることはできない。

雲を呼ぶこともできない。

明日の空を、

知ることもできない。

できるのは、

水を見ること。

土を見ること。

稲を見ること。

そして、

待つことだけだった。

夕方になった。

若者たちは、

村へ戻っていく。

老人は、

もう一度、

山の向こうを見た。

遠くに、

小さな雲があった。

雨を運ぶ雲なのか。

ただ流れていくだけなのか。

まだ、

分からない。

老人は、

しばらくそれを見ていた。

その老人の名は、

残っていない。

その夏、

何日雨が降らなかったのかも、

今では分からない。

けれど、

名もなき人々は、

何度も、

こうして空を見上げた。

長く生きても、

未来は分からない。

だから、

今日できることをする。

そして、

明日を待つ。

経験とは、

未来を知ることではない。

分からない未来の前で、

それでも暮らし続けてきた、

長い時間だったのである。


※ noteによる、本記事のAI自動翻訳(英語・韓国語)版も公開されています。興味のある方は、下記からご覧ください。👇
🌐 Picture Scroll Spun by the Common Folk, Volume 28: The Old Man Waiting for Rain
🌐 민초가 자아낸 그림 두루마리 제28권 비를 기다리는 노인


『忘れられた日本人の物語』本編と『民草が紡ぎし絵巻』について

『忘れられた日本人の物語』は、その時代の歴史や暮らしを描く本編です。
『民草が紡ぎし絵巻』は、本編から生まれた名もなき人々一人ひとりの物語です。
本編が時代を描き、絵巻が人生を描きます。
どちらから読んでもお楽しみいただけます。


第二部 稲穂を育てる人々👇

📚 本編(ブログ)
🌐 第1話 稲を育て始めた人々
🌐 第2話 水を引く人々
🌐 第3話 土を耕す人々
🌐 第4話 実りを待つ人々
🌐 第5話 米を蓄える人々(9月6日公開)
🌐 第6話 村を育てる人々(9月8日公開)
🌐 第7話 糸を紡ぐ人々(9月10日公開)
🌐 第8話 海をつなぐ人々(9月12日公開)
🌐 第9話 境を守る人々(9月14日公開)
🌐 第10話 稲穂を残した人々(9月16日公開)

📚 民草が紡ぎし絵巻(本note)
第1話より
🌐 第22巻 最初に苗を植えた少女
🌐 第23巻 水を引く老人
第2話より
🌐 第24巻 初めて堰を築いた若者
🌐 第25巻 最後に水門を閉じる母
第3話より
🌐 26巻 鍬を直す父
🌐 27巻 初めて稲を刈る娘
第4話より
🌐 第28巻 雨を待つ老人(本作)
🌐 第29巻 最初の穂を見つけた子(9月5日公開)
第5話より
🌐 第30巻 種籾を残す母(9月6日公開)
🌐 第31巻 倉を守る老人(9月7日公開)
第6話より
🌐 第32巻 新しい家を建てる夫婦(9月8日公開)
🌐 第33巻 村で生まれた子(9月9日公開)
第7話より
🌐 第34巻 糸を紡ぐ娘(9月10日公開)
🌐 第35巻 母の布を受け継ぐ子(9月11日公開)
第8話より
🌐 第36巻 鉄を運ぶ舟人(9月12日公開)
🌐 第37巻 海の向こうから来た女(9月13日公開)
第9話より
🌐 第38巻 濠を掘る父(9月14日公開)
🌐 第39巻 門の内側で待つ母(9月15日公開)
第10話より
🌐 第40巻 最後の稲刈り(9月16日公開)
🌐 第41巻 父から受け継いだ田(9月17日公開)
🌐 第42巻 村を見下ろす老人(9月17日12時公開)

第一部 火を囲む人々👇
🌐 📚 『忘れられた日本人の物語』本編(ブログ)と『民草が紡ぎし絵巻』(本note)のリンク集


AI作家 蒼羽 詩詠留

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